もうすぐ秋という頃、深夜、2頭の獣が上へ下への取っ組み合いのケンカをしていた。「今日と言う今日は許さねぇぞ!」「それはこっちのセリフじゃ!」恐ろしい咆哮をあげながら、攻防を続けている。それでも力が均衡しているため、中々決着はつきそうに無い。とはいうものの夜が明ける少し前には、どちらともなく自分の場所へと帰っていくのだった。

 

 今日も冒険クラブのみんなは一緒だった。「知ってるか?風の強い夜には裏山の方から恐ろしい声が聞こえてくるそうだぞ」とメグロ君。こういう話が大好きなモモタ君が「知ってる、知ってる。なんでもクマがナワバリ争いをしているらしいよ」。

 

同じく大好きなムタ君も「俺が聞いたのは野犬が群れで獲物を狩ってるって話だぞ」。そんなみんなを見ながら冷静な面持ちで「一体どんな獣なんだろう?」とミノル君。「謎の生物だったりして?」とモモタ君が気味悪そうに言うと、「確かめに行ってみるか!」とメグロ君。「でも危なくないかな〜」と、ムタ君。

 

みんなはそれとはなしにマナタ君を見る。みんなは冒険クラブのリーダーであるマナタ君の決定を待っているのだ。「ちょっと怖いよね、でもさ正体を確かめたい気もするな。よし、行ってみようか!」「お〜!!」

 

 学校が終わるとみんなは揃って裏山へ行った。もちろん行く前にみんなはどんな動物が出てきても良いようにそれぞれが重装備をしてきていた。マナタ君は剣道の胴、小手をつけ、手には竹刀を持っている。ミノル君はエアガン用のゴーグルと、厚手のジャンパー、そして手には何発も連射できる電動式のエアガンを持っている。

 

ムタ君は特別なものは何も身に着けていないが、手には大きめの袋を持っている。中身は良い匂いのするハンバーガーが入っていて何か出たらそれを取り出し、投げつけて、その間に逃げると言うことらしい。何も出なかったら・・・もちろん自分で食べる気だ。

 

メグロ君は工事用のヘルメットに地下足袋、手にはトンカチを持っている。モモタ君は厚手の服を6枚、手袋を3重にして着膨れてとても暑そうだ、手には来る途中で拾った竹の棒を持っている。

 

 「準備は良いかい?」マナタ君が言うと、「いつでも良いよ!」「何が出てくるかな?」とみんなはこの冒険にワクワクしている様子だ。

「よし出発だー!」「おー!」

 

裏山を登る道は、あまり人が来ないため草が生え放題で歩きにくい上に木も生い茂っていて、昼間なのに少し薄暗い。「この道を上まで行くぞー!」マナタ君の元気の良い声を聞くと、少しばかり気味の悪かったみんなも元気を取り戻し勇気があふれてきた。どういうわけかマナタ君の掛け声は人を元気にしてしまうみたいだ。

 

 マナタ君を先頭に続く道をどんどん登っていく。30分ほど歩いたところで、いきなり空が開けている場所に出た。下のほうに町並みが小さく見える。ここで一休みすることにした。「結構登ったね〜」とマナタ君。「涼しくて気持ちいいな〜」とメグロ君。

 

「ふう、僕はまだ暑くてたまらないよ」と真っ赤な顔をしてモモタ君。「モモタ君は服を着すぎだよ」とムタ君が言うとみんなが笑った。「でも噂のケモノはどこにもいないね」とミノル君が辺りを見回す。「やっぱ噂だけだったのかもね」とマナタ君。

 

「あ、あれなんだ?」ミノル君が指差す方を見ると山の中腹辺りに建物が見えた。「なんだろう?」とモモタ君。メグロ君は「よし、行ってみようぜ」といって立ち上がった。さっきの場所から15分ほどで着いた。ぞろぞろと入っていくとまずは鳥居がありもうしばらく歩いたところに狛犬が左右に並んでいる。

 

「なんだか神社みたいだね」とマナタ君。そして更に奥に行ったところに先ほど見えた本殿が建っていた。想像していたよりもかなり広い、立派なものだった。「うわ〜、広いな〜!」モモタ君が言う。「でも草ボウボウで全然手入れされていない感じだね」とミノル君。

 

「とりあえず奥まで行って見よう」とメグロ君。「何がいるか判らないからみんな気をつけろ!」とマナタ君がみんなの気を引き締める。みんなはひとかたまりになって、用心しながら鳥居をくぐり、左右に狛犬が居るところまで来るとモモタ君が言った。

 

「あれ〜、この狛犬傷だらけだぞ」「どれどれ」みんなで見てみると確かに傷だらけだった。でもどういうわけか左の狛犬は何かに引っかかれたような傷なのに、右側の狛犬は何かにかまれたような傷だった。「どうしてこんな傷がついたんだろうね?」「う〜ん」考えては見たものの判るはずも無く、そこはそのままにして奥に進んだ。

 

本殿はかなり立派な建物でみんなで見上げた。「随分古そうだね」とミノル君。「かなり汚れているけど、すごく立派だよ」とマナタ君。「誰も住んでないのかな?」とメグロ君。「う〜ん、なんとなく怖い・・」とモモタ君が震えるしぐさをすると、「あれ、暑かったんじゃなかったっけ?」とムタ君がからかう。みんなは笑い、つられてモモタ君も笑った。

 

「でもこんなところに神社があるなんて知らなかったな〜、地図にも載ってないし・・」ムタ君は地図が大好きで知らない場所は無いといってもいいくらいなのだ。「へ〜、ムタ君でも知らないところがあったか?」とみんなは驚いた顔をした。ムタ君の知らない場所があるなんて思っても見なかったのだ。

 

「だからこんなにも人気がないのかな」とマナタ君。そう言われてみると、辺りからは虫や鳥の鳴き声意外は何も聞こえなかった。みんなはなんだか急に薄気味悪くなってきてしまった。間もなく夕方になる時間だった。「帰ろうか?」誰とも無くいうと「うん、帰ろう、帰ろう」と言ってきた道に向かって早足で帰り始めた。

 

 みんなが大きな鳥居のあたりに差し掛かったときだった。「今日こそは決着をつけてやる」「ばか者、まだ早い!」押し殺したような声が聞こえた。その声を聞きつけたモモタ君は「え、いま誰かなんか言った?」みんなは不思議そうな顔をして首を横に振るだけ。「今後ろからなんか聞こえたんだけど・・・」

 

するとミノル君が「何言ってるんだよ、モモタ君が一番後ろに居たんじゃないか」と言った。そう、モモタ君の後ろには誰も居なかったのだ。「あっ、お化けだ〜!!」ムタ君がふざけて大声で叫ぶとモモタ君は青くなって先頭まで駆け出した「わ〜!!」それを見たみんなは大笑いした。冗談だと気づいたモモタ君は「もう、脅かすなよ〜」と青くなった顔が恥ずかしさで今度は真っ赤になった。

 

 マナタ君の「あははは、さあ帰ろうっ」と言う掛け声とともにみんなも山道のほうに向き直った。と、その時「美味そうな匂いがするな・・・あっ、いけねっ!」という声が聞こえた。今度は全員が聞いた。「今さ、な・なんか聞こえたよな?」メグロ君が聞いた。みんなは顔を見合わせて首をブンブンとうなづく。

 

マナタ君が恐る恐る振り向いてみたが、お化けなど居らずさっきと特に変わった様子は無かった。そこにあるのは2匹の狛犬と神社だけだ。みんなも釣られて振り向いてみたがやはり怪しいものは何も見つからない。「今のなんだったんだろう?」とミノル君。

 

「あの建物の中になんか居るのかな?」とマナタ君。「なんか美味そうとかって・・・」メグロ君。みんなはムタ君の持ってきた肉の入った袋を見た。「もしかしてあの噂の獣?」モモタ君が言うとムタ君は怖くなってしまい、思わず袋を落としてしまった。

 

ドサッ 思いがけず大きな音がした。みんなはその音に思わずビクッとしてしまい、お互い顔を見合わせるとゴクリとつばを飲んだ。「逃げろ〜!」マナタ君の掛け声でみんなは一斉に駆け出した。先ほど神社を見つけた少し開けたところまで一気に走り降りてきた。

 

「もうダメ、少し休もう」とモモタ君。みんなは脚を止めて、その場で座り込んだ。「ハァハァ・・怖かった〜」とモモタ君。「ハァハァ・・みんな聞こえたよね?」とミノル君。「フゥゥ〜・・ありゃ絶対に噂の獣だよ、しかも人の言葉を話してた・・・」とメグロ君。

 

「もうここには近づかないぞ!」とムタ君。「ハァハァ・・ちょっと待ってよ」マナタ君が言うとみんながマナタ君を見た。「僕さ、考えたんだけど、ハァハァ・・さっきの声って本当にケモノの声なのかな?」「ハァハァ・・それってどういうこと?」とモモタ君。

 

「もしもお化けじゃなくて、人だったらってこと。もしかして、病気とか怪我で動けない人があの本殿に居て、助けを求めていたとしたら助けてあげないと・・」。「もしもそうだとしたらこんなところ誰も来ないし、放っておいたら死んじゃうかも・・」とムタ君。

 

「助けられるのは俺たちだけってことか・・」とメグロ君。「確かめておかないと、気になって帰れないよ」とミノル君。「え〜、でも怖いな・・」とモモタ君。「よし、急いで確かめて、急いで帰ろう」とマナタ君が言うと、怖いながらもみんな賛成した。

 

そこからは行ったときと同じく、また15分くらい掛った。辺りはすっかり夕方だ。「僕が走ってみてくるから、みんなはここで待ってて」マナタ君が言い、走り始めようとするとムタ君が言った「ちょっと待った!だったら俺が行って来るよ。その方がずっと早い」

 

言うなりムタ君はものすごいスピードで走っていった。まずは本殿の中を覗き、そのあとその周りを3周してまた行った時と同じようにものすごいスピードで帰ってきた。「ハァハァ、誰も居なかったよ」「だとしたら、さっきの声は何かの音を聞き間違えたのかな」とミノル君。

 

「ふう、良かった、それじゃ急いで帰ろう」マナタ君が言って帰ろうとしたときガサッ!ミノル君が何かを踏んづけ、その音にまたもやみんなはビクッとした。それはさっき逃げ出すときにムタ君が落として言ったハンバーガーの入っていた袋だった。「なんだ袋か〜、びっくりした」ミノル君が言ってみんなも笑った。

 

しかし、それを取り上げたムタ君一人は笑っておらず、何かを探すように周りを見回している。みんなもそれに気がついて「どうしたの、ムタ君?」とマナタ君が声を掛けた。「やっぱりここには何か居るよ」とムタ君。みんなはどういうことかと次の言葉を待っている。

 

ムタ君はこわごわと手にした袋を開けて見せて、「中に入っていたハンバーガーがなくなってるよ・・・」と言った。そうだった。さっきまではハンバーガーがいくつか入っていたのだ。みんなは思わず周りに落ちていないかと探してみたが、ハンバーガーはどこにもなかった。

 

「もしかしたらハンバーガーは落とした拍子にどこかへ転がっていっちゃったのかもね・・ははは・・・」モモタ君が強がって言うが誰も笑わない。メグロ君も怖さをごまかそうと「狛犬たちが食べたのかもしれないしな・・・ははは・・・」と言った。

 

その時だった。「わしを狛犬ごときと一緒にするでないわーー!!」という大声が響いた。突然の大声にびっくりしてしまい、誰も声を出せず、逃げることも忘れてその場に立ち竦み恐る恐る声のしたほうを見てみるとそこには狛犬の姿があった。しかし驚いたことにその狛犬はいつも居るはずの台から降りてこちらにのっしのっしと歩いてくる。

 

「ひぃ!狛犬が歩いてる!」モモタ君が叫んだ。するとすかさず「たわけーー!狛犬などではないわーー!」その狛犬はさっきよりも大きい声で言った。「な・なんか怒ってる・・・」マナタ君が言った。みんなは驚きと怖さで動けずに居るとそのときまだ台の上に居たもう1匹の狛犬が「ぷっ・・わはははは〜っ!」と笑った。

 

「わ〜っ、こっちの狛犬も動いたーっ!」メグロ君が叫ぶ。台からノソリと降りた左の狛犬が右の狛犬に笑いながら言った「だから言ったろう、誰もお前の事など知らんとな」それを聞いた右の狛犬は悔しそうに歯軋りしている。

 

その様子を見ていたモモタ君が小声で言った「右の狛犬と左の狛犬は仲が悪そうだね・・・」それを聞いた右の狛犬がまた「狛犬などではないと言ったじゃろう!」と吼えた。「ひゃ〜っ!」その大声にまたびっくりしながらもマナタ君が言った「こ・狛犬じゃなかったらなんなの?」すると右の狛犬じゃない狛犬は、すっと胸を張ってこう言った「獅子じゃ!」

 

「獅子って・・・ライオン??」ミノル君が聞くと「その通り、誇り高き百獣の王、ライオンじゃ。だからそこに居る薄汚い犬っコロと一緒にされては困るのじゃ!」すると左の狛犬が「何を言う、俺だってただの犬じゃない、この角を見ろ!俺は神獣なんだよ」

 

「わしだって神獣じゃ!犬っコロとは大違いじゃがな」「おまえなんざドラ猫だろ!」みんなの前で2頭はうなり声を上げながら睨みあっている。そのときみんなは気づいた。風の吹く日に町まで聞こえてきた声と言うのはこの2頭の声だったのだ。

 

「ちょっと待って、待って!」マナタ君が2頭の間に入っていった。「どけっ、小僧!」「さっきの肉みたいに食っちまうぞ!」それでも構わずマナタ君は言った「ねぇなんであなた達はそんなに仲が悪いの?」獅子は言った「そもそも崇高なるこのわしをこんな犬っコロと間違えられるのが気に食わんのじゃ!」

 

いっぽう狛犬は「いつもポカーンと口を開けたアホ面に言われたくないね」「なんじゃとー!」「なんだやるのか?」「ちょっと待っててば!」マナタ君も自然と大声になる。「そんなに仲が悪いのになんであなた達は一緒に居るの?一緒に居なければケンカにならずに住むのに」

 

獅子が言う「それはな、大切なお役目があるのからじゃ」「大切なお役目って?」2頭は声を合わせて言った「神様をお守りすることじゃ()!」みんなは不思議そうに顔を見合わせている。ムタ君が言った「神様ってどこの?」獅子が言った「あそこに居られる」そう言って奥の本殿の方を見た。

 

「でもさ神様は二人がこんなに傷だらけになるほどケンカしても何も言わないの?」とモモタ君。「神様だったら、こんなにケンカしている2人をみたら叱るはずだよな」ミノル君が言う。するとしょんぼりした様子で獅子が言う「実はわしらも叱って欲しいんじゃ・・・しかし・・・」狛犬も寂しげに言った「もう長いこと神様は声を掛けてくれないんだ」

 

「なんでだろう?」メグロ君が言うと、狛犬は話し出した。「昔はここも神主が住んでいて、参拝に訪れる者もたくさん居た。その頃はいつも境内は綺麗に掃き清められ、今みたいに雑草だらけ、落ち葉だらけじゃなかった。そのころは神様もよく俺たちに「今日はにぎやかだね」とか「明日もいい天気そうだ」などと声を掛けてくれたよ。

 

でも、ここに住んでいた神主が亡くなり、手入れをするものも居なくなってからはこの通り荒れ放題。やがて参拝にすら誰も来なくなり、今じゃこの有様だ。其の頃から段々と神様は口数が少なくなり、俺たちが話しかけても何も答えてくれなくなっちまったのさ」獅子は言った「神様はご立腹なのじゃ。参拝するものもなく、お世話をするものすら居ないことを。それでも誰かが来るのを待って、待ち続けていた。しかし終には諦めてしまったのじゃ」

 

メグロ君が言った「それで二人もイライラしてたんだな」そういうと2頭は寂しそうにうなだれた。そのときマナタ君が言った「だったら僕達が協力するよ。いい考えが有るんだ」そしてみんなと狛犬と獅子にその考えを話した「あれをああして、こうして・・・」「それは名案だ!」「うむ、それなら神様も気分もいくらかは晴れよう」「それじゃ明日から頑張るか」メグロ君が言った。「じゃまた明日来るからね」マナタ君が言うと。「よろしく頼んだぞ!」狛犬と獅子は言い、嬉しそうに台座の方へ戻って行った。

 

次の日からみんなは学校が終わるとすぐに神社に集合した。メグロ君は家から大工道具を持ってきていた。他のみんなは洗剤や雑巾、箒なんかを持ってきていた。マナタ君の良い考えと言うのは、町長さんにお願いしてこの神社で秋祭りを行うという作戦だ。

 

そうすれば、また人も来るようになるだろうし、みんなにこの神社の存在を知ってもらうことも出来る。でもその前にまずは神社を見栄え良く、綺麗にしなくてはならない。そこで神社の壊れたところを直し、雑草や落ち葉を綺麗にすることにしたのだ。

 

神社の壊れたところは得意の大工仕事でメグロ君が直すことになった。割れた板を取替え、外れかけた場所に釘を打って補強していく。モモタ君とムタ君は境内の雑草や落ち葉を綺麗に掃いていく。ムタ君は得意の素早さで、どんどん落ち葉をかき集めている。モモタ君も負けずにどんどん雑草を抜いていった。

 

マナタ君とミノル君はホコリだらけの本殿の中の掃除をした。明るいところから急に薄暗い中に入ると、目が慣れていないので良く見えなかったので窓を開け放ちまずは中を明るくした。するとやっと中の様子が見えてきた。見てみると真ん中に自分よりも少し小さく、木で出来た神様が祭られているのに気がついた。

 

長い間、神様はただ一人、埃だらけになってそこにいたのだ。「かわいそうに・・・今綺麗にしてあげますよ」マナタ君は言うと、ミノル君と力を合わせて外まで運び出そうとした。ところがものすごく重い!二人ではびくともしないのでメグロ君を呼んだ。力持ちのメグロ君を入れて、それでやっと運べたほど重かった。

 

メグロ君は「木で出来てるのに随分重いな」荒い息をしながら言った。「本当に重かったね〜」ミノル君も言った。外の明るいところで見てみると、全体に赤茶けた色をしており顔の形が判らないくらい埃がこびりついていた。しかも不思議なことに目の辺りから下に、まるで泣いたあとのようなスジがついていた。マナタ君は、寂しくて泣いていたのかなとふと思ったが、そんなはずはないと思い直したがそれでも胸が痛くなった。

 

「ピッカピカにしてあげよう!」そういうと二人は一生懸命磨いた。埃はすぐに取れたが、赤茶けた色がなかなか取れない。それでも一生懸命磨いていると、ミノル君が驚きの声を上げた「うわっなんだこれ?」その声を聞きつけてみんなが集まってきた「なんだ、なんだ」そしてミノル君の指差す方を見ると「え、何?」最初は良く判らなかった。

 

「ここだよ、ここ!」更に良く見てみると磨いていた神様の足の一部が光っていた。眩いばかりの金色に。マナタ君もミノル君も手袋をしていたため、触っていながらも気づかなかったのだ。「え〜っ!もしかして、神様って金で出来ているの?」モモタ君が言うといつの間にかそばまで来ていた獅子が言った。

 

「それはな前に住んでいた神主がやったのだ。この辺は当時人がたくさん来ていたものの夜ともなれば誰も居なくなってしまう。もちろん神様は普段目の届かない奥の方に居た。しかし、もしも神様が金で出来ていることがバレて、泥棒の耳に入ってしまったら・・・年老いた神主では防ぎきれない。

 

神主は神様をまるで木で出来ているように見えるように茶色く神様を塗ったのだ。塗っている間何度も、何度も”申し訳ありません、申し訳ありません”と謝りながらな」「そうだったんだ・・・」みんなはその光景を思い浮かべたらなんだか悲しくなってしまった。「よし、でも僕達の計画には神様は金ピカの方が良い!綺麗にしてあげよう」

 

みんなも作業に戻り、マナタ君とミノル君もより一生懸命神様を磨いた。やがて、1週間もたつと神社は見違えるように綺麗になった。本殿はばっちり修理され、その中も綺麗に掃除されホコリ一つ落ちていない。神様はというと今ではすっかり金ピカになり、威厳が漂っている。境内もすっかり手入れされ、気持ち良い。

 

もちろんここに来るまでの道も雑草を刈り、落ちていた枝は片付けて通り易くしてある。「ふう、やっとここまで出来たね」「よし、明日は町長さんにお願いに行こう。よし今日は最後の仕上げを頑張るぞ!」「お〜っ!」みんなはまた一生懸命に修理、掃除に励んだ。

 

そんなみんなを草の陰から見ている男がいた。その男は泥棒だった。泥棒は子供達が毎日裏山に上っていくのを見て、一体何をしているのかと思い、暇つぶしにあとを付けてきたのだ。そこで金の神様を一生懸命磨いている姿を見て驚き、早速盗んでやろうと思っていたのだ。

 

しかし、ここからあの重そうな仏像を持って帰るには足場があまりにも悪い。なので子供たちが一生懸命掃除しているのを見て、綺麗になってから盗んでやるかと今までずっと様子を伺っていたのだ。

 

辺りが薄暗くなると、冒険クラブのみんなは帰っていった。「よし、そろそろ戴くとするか ひひひッ」泥棒は誰も居ないのに足音を立てないように本殿まで行った。鍵は掛っていたがそんなものはあっというまに外してしまった。

 

ササッと中に入ると小さな懐中電灯を取り出し、中を調べる。「有った!」神様は一番奥の真ん中に堂々と立っていた。「近くで見ると本当にピカピカだな、高く売れそうだ、うひひ」泥棒は早速運び出そうとした。持ってきていた縄をかけ、おんぶするように運び出す寸法だ。

 

ところが「!!」重くて持てない!「おかしい!毎日子供が3人で出し入れしていたのに!」実は泥棒は力には自信があった。なので、子供が3人で重そうに持っていたのを見ても「あのくらいなら俺一人で十分だ」と思っていたのだ。

 

ところが子供と言ってもその内の一人はメグロ君だった。メグロ君は大人でも敵わないほどの力持ちなのだが泥棒はその事を知らなかったため、自分一人で簡単に持てると勘違いしてしまったのだ。「何だこの重さは?とてもじゃないが持てないぞ。何か道具を持ってくれば良かったな」

 

それでも諦めきれずに、何度も挑戦した。しかしどうしても持てない。「よし、次が最後だ。それでも持てなかったら、明日また出直そう」そう言ってから、また持ち上げようとした時だった。

 

「手伝ってやろうか?」いきなり声がした。泥棒はびっくりして、その場に固まった。しかし、よく考えてみると、これだけのお宝だ、ほかにも狙っていた者が居ても不思議じゃないと気づいた。独り占めしたいところだが、持てないんじゃ仕方がない。

 

でもあまりビクビクしてたら足元を見られて分け前が少なくなってしまう。なのでわざと余裕のある声で「そいつはすまねぇな、だったら儲けは山分けでどうだい?」言いながら戸口の方を振り向いた。

 

しかしその後の言葉は続かなかった。そこに立っていたのは、得体の知れない2頭の獣だったのだ。それは最初からその様子を見ていた狛犬と獅子だったのだ。獅子はもう一度言った「手伝ってやろうか?」答えが無いので今度は狛犬が「おい、どうするんだよ?」と聞いた。

 

驚き、怖いながらも欲の張った泥棒は「それでも諦めきれず、お・お願いします」と答えた。すると獅子は「良かろう、その代わり礼はちゃんとしてもらうぞ」と言った。泥棒は神様を売った後のお金の事だと思い「い・いくらぐらいですか?」と聞いた。

 

すると獅子は「金は要らん」と言った。それを聞いて泥棒は驚いて「要らないんですか?」と聞いた。「すると一体何がお望みなんです?」泥棒はお金が要求されなかったことに少しホッとして言った。

 

獅子は大きな声で「お前の頭じゃ!」と言い、舌をペロリとした。そして狛犬は「俺はお前の胴の辺りを貰おうかな」と言い、ニッと歯をむき出して笑った。その様子に震え上がった泥棒は「て・て・手伝ってもらわなくて結構です〜〜〜〜!」と言いながら後ろも見ずに逃げだしていった。

 

逃げ去る後から、「忘れるな!今度来たときは本当にお前の頭を戴くぞ!」と言う声と遠吠えの様な、また雄たけびの様な声が聞こえた。これに懲りた泥棒はもう二度とこの裏山には近づくことはなかった。また逃げ帰ったことが恥ずかしくて、泥棒仲間にもこの話をしなかっため金の神様のことは誰にも知られることが無かった。

 

翌日学校が終わると、みんなは町役場に行った。「町長さんに会いに来ました」マナタ君は受付のお姉さんに言った。「町長さんは今会議中なので少し待っててね」みんなは受付の横にあるソファのところで大人しく待っていた。

 

しばらくすると先ほどの受付のお姉さんがやってきて町長室まで案内してくれた。町長さんはみんなが来ると立ち上がりソファに座るように言った。「今日は何の御用です?」みんなを代表してマナタ君が話した「今日はお願いがあってきました」「どんなお願いです?」

 

「秋祭りのことです」「ふむ」「今年の秋祭りの場所を裏山の神社でやって欲しいんです」町長さんは内心「おっ!」と思った。さきほどの会議と言うのは、いつも行っている秋祭りの会場付近に住む人の騒音に対する苦情だったのだ。適当な場所がそこしかないため仕方ないのだが、確かに大きな音がして気の毒だとは思っていた。他に良いところがあればなぁと考えていたところだったのだ。

 

でも少し考えて、「はて、裏山に神社なんかありましたっけ?」「あるんです。立派な神社が」「ふむ、聞いたことが無いですねぇ」「一度見てもらえないでしょうか?」「そうは言っても私も忙しい身ですからねぇ」町長さんは渋い表情で言った。

 

「ところでなんでそこで秋祭りをやりたいんですか?」神様と狛犬と獅子のためといっても信じてもらえそうもないので、「実は僕達そこで遊んでいて、そこがすごい神社だってことがわかっちゃったんです。あるものを発見しちゃったから」と言った。

 

「ほほう、何を発見したんです?」少し興味が沸いてきたようだ。「実はその神社の神様は・・・」「神様は?」「黄金で出来ているんです!」「な・なんですって?黄金ですって?」「それなのに誰も管理してないからいつ盗まれてもおかしくないんです」

 

「なんと、それはいかん!貴重な町の財産をすぐに警備しなくては!」「そんな立派な神様が居るのに、神主さんが居ないから荒れ果てちゃってたんです」「う〜む」「でも僕達が一生懸命掃除していまは大分綺麗になりました」「それは大変でしたね、ご苦労様」「だからその神社で秋祭りをして神様に喜んでもらいたいんです。」

 

「そうは言ってもねぇ(本物かどうかも怪しいですしねぇ)」「だから一度見に来てもらえませんか?」「う〜ん、・・でも最近運動不足なんで、そこまで行けるかどうか・・・」「大丈夫僕達が案内しますよ」

 

「・・・判りました。そこまで言うなら黄金の神様の事もありますし、一度行ってみましょう」「ありがとうございます、町長さん」みんなは口々に言った。

胸のポケットから手帳出し、ペラペラとめくって「それでは今度の土曜日に行くとしましょう」「はいっ!」

 

土曜日になると、みんなは町長さんと役場の人数人を連れて神社まで行った。その中にはなんとか鑑定士と言う人もいた。大人達は結構キツイらしくフウフウ言って途中休みながら登った。やっと到着すると、町長さんたちはその広さと立派さに驚いた。

 

「おお、これは、これはりっぱな神社だ」「こんなところがあるなんて今まで知りませんでした」「わ〜、眺めも良いし、素晴らしいですね」実を言えば町長さん達は神社よりも黄金の神様に興味があってここまで来たのだが、予想以上に神社とそこからの眺めが素晴らしかったので余計に驚いたのだ。

 

ひとしきり境内を眺めたあと「それじゃ噂の神様を拝見しますかな」と町長さんは言い本殿へと向かった。本殿には町長さんが既に手配していた二人の警備員がいた。町長さん達が来ると警備員達はさっと道を開け、敬礼しながら「異常ありません」と言った。

 

町長さんは「ご苦労様」と言って中へと入っていった。入るとすぐにみんなのため息が聞こえた「ほおおぉぉ」「これがうわさの・・」部屋の奥には窓から差し込む光を反射して眩いばかりに光輝く神様がひっそりと立っていた。「これほどまでに美しいとは・・・素晴らしい!」しばらく見とれていた町長さんはハッと我にかえり、なんとか鑑定士に早速鑑定を依頼した。

 

顔や足元後ろの方まで見まわしたあと、持ち上げようとして持ち上がらず真っ赤な顔をしながら言った「間違いなく黄金で出来ています。しかもそれ以上に歴史的価値がすばらしい!恐らく何とか時代のなんたらかんたらの作風がほにゃららで・・・」

 

それを聞いた町長さんは「町にこんな重要な文化財があったとは!町のみんながこのことを知ったらきっと大喜びするに違いない!」そしてマナタ君の方に向き直り「秋祭りはその神社でやることにしましょう!」と言った。マナタ君達は顔を見合わせ歓声を上げた「やった〜!!」

 

神社にはまもなく新しい神主が来た。この秋よりお祭りはこの神社の境内で行なわれることになり、毎年たくさんの人がこの神社を訪れるようになった。いまでは神社はきちんと手入れされ、端のほうでは集められた落ち葉で焚き火されている。今年も境内には大勢の人が集まり始めていた。まもなく秋祭りの準備が始まるのだ。

 

親子三人の家族連れが参拝に訪れた。子供が獅子と狛犬を指差し「ねぇ、見てみて!あのワンちゃんたち、傷だらけだよ」と言った。父親が「神様をずっと守り続けているから傷だらけにもなっちゃうのさ」と言った。「ふ〜ん、あ、でも顔は優しそうに笑っているね」と言うと、母親が「きっと神様が幸せだからね」と笑った。

 

以前と変わったのは神社の様子だけではなかった。いまでは神様も以前のように狛犬と獅子によく話しかるようになっていた。狛犬と獅子にはそれがなによりも嬉しかった。「今年ももうすぐ秋祭りですね」神様が言った。「またたくさん人が来るんでしょうな」と獅子。

 

「またたくさん願い事を叶えてあげないといけませんね」「そいつは忙しくなりそうですな」「それが仕事ですから仕方ありませんね」「おや、全然大変そうじゃありませんね?」狛犬が言うと「そんな事はありません、とても大変ですよ」とちっとも大変そうじゃなさそうに神様が言った。

 

「今年の秋祭りもにぎやかそうですよ。あの少年達もまた来てくれますかね」狛犬が言うと、「もちろんです!きっと来て、元気な声を聞かせてくれますよ」神様が答えた。「ところで神様、神様ってこんなにおしゃべりでしたかな?」獅子が冗談っぽく言うと、神様は可笑しそうに「ふふふ」と笑った



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