今日も冒険クラブのみんなはポセイドン号で海に出ていた。風も無く波も穏やかだった。みんなは甲板の上でのんびりと海を眺めていた。あまりに気持ちが良くてウトウトし始めた時、上の見張り台に居たムタ君が大きな声で言った。

 

「おーい、島が見えるぞーっ」海図を見ながらムタ君は言った「こんなところに島なんて無いはずなのに」とりあえず近くまで行ってみることにした。近くで見るとそんなに大きくはなく、木が生えてなくて、真っ黒な色をしていた。

 

「変な島だなあ」ミノル君が言った。「無人島かな」モモタ君が言った。するとメグロ君が「上陸してみようぜ」と提案した。しかしぐるりと周りを回ってみたが上陸できそうなところはなかった。島の側でどうやって上陸しようか頭をひねっていると、急に船が小刻みに震え出した。

 

「何だ、何だ」海面も小さく波が立っている。その時モモタ君が叫んだ「見て!島が動いている。」みんなの見ている前で島がどんどんせり上がり海の下から大きな裂け目が現れた。「逃げろー!」大急ぎでみんなは逃げ出した。

 

しかし島は裂け目を前にして追いかけてきた。少し離れたときメグロ君が言った「おいあれ見てみろよ」「うわあクジラだーっ」なんと島だと思っていたのは昼寝をしていた大きなクジラだったのだ。一度は引き離したもののクジラはだんだんと追いついてきた。

 

「おい、追いつかれるぞ」「もっと早く、早くぅ!」ミノル君が叫んだ「もうこれ以上早く走れないよぉ!」クジラはすぐ後ろまで迫ってきていた。そして大きな口を更に大きく開けたかと思うと、ポセイドン号をパクリと飲み込んでしまった。

 

真っ暗だった。クジラに飲み込まれた後、みんなしばらく気を失っていたようだ。「おーい、みんな大丈夫か?」マナタ君が声をかけると、あちこちから返事が返ってきた。みんななんとか無事なようだ。船のライトをつけてみた。

 

そこはまるで洞窟の中の様だった。ただ洞窟と違うのは周りの壁がゆっくりと動いていることだ。ミノル君が言った「ここ、クジラのお腹の中なんだよなぁ?」「多分そうだよ」マナタ君が言った。「何とか外に出ないと胃液で消化されちゃうぞ!」ムタ君が言った。

 

「そんなの嫌だよう!」モモタ君が言った。「みんなで外に出る方法を考えるんだ」マナタ君が言った。いろいろ考えたがあまり良い案が浮かばなかった。みんなは難しい顔をして考えていた。モモタ君は少しリラックスさせようと横に居たムタ君のことをくすぐってみた。

 

「ワハハハーッ」その気持ちをを察したマナタ君も反対側に居るミノル君のことをくすぐった。そして最後にはみんなでくすぐりあった。「うわぁやめろ!」「えーいこうしてやる!!」みんなで大笑いしていた時突然マナタ君が言った。

 

「これだ!!!」みんなが不思議な顔をしていると、「みんなでくすぐろうぜ!!」マナタ君が考えたのは、なんとクジラのお腹をくすぐろうということだった。

 

みんなは手に手に掃除用のブラシや長い棒を用意した。マナタ君が言った「みんな用意は良いか?よしくすぐれー!」コチョコチョ、コチョコチョ、つんつん、つんつん、グリグリ、グリグリそうすると、急に周りが揺れ出した。

 

「きっとくすぐったがっているんだ。みんな、もっとくすぐるんだー!」マナタ君が叫んだ。みんなは更に力を込めてくすぐった。コチョコチョ、コチョコチョ、コチョコチョ、つんつん、つんつん、つんつん、グリグリ、グリグリ、グリグリ。

 

「うわっはっはっはっはっはー!」ものすごい笑い声がしたかと思うとポセイドン号はクジラのお腹の中から外へ飛び出した。

 

ザパーン!外は太陽が照り、冒険クラブのみんなは眩しくて目が眩んでしまった。だんだん目がなれて周りが見えてくると、なんとすぐ側でクジラがまだくすぐったそうに笑っていた。「うわあ、逃げろ!!」みんなは慌てて逃げようとしたとき、大きな声が

 

「こら!おまえ達。わしのお腹の中でなにしとるか?」と言った。みんなは恐る恐るクジラの方を見た。すると意外なことに、クジラは身体の割りには小さいが優しい目でこちらを見ていた。「おいおまえ達、いつのまにわしのお腹の中に入ったんだ?」

 

マナタ君は言った「そっちが僕らのことを追いかけてきて飲み込んだんじゃないか」それを聞くと「なに?わしが飲み込んだじゃと?はて、もしかしてさっき大きな魚を飲み込んだと思ったがおまえ達だったのか」

 

「そうだよ!僕たちだよ!」みんなは口をそろえて言った。「おおそれはすまないことをした。実はわしはもう歳でな、あまり物が見えんのだ。それで、魚と間違えておまえ達を飲み込んでしまったらしいのう。」

 

「目が悪いの?」ミノル君が聞いた。「そうなんだ。最近特に悪くなってきて、この間なんぞ大きなイカだと思って噛み付いたら難破した船だった。」それを聞いたみんなは相談した。そしてミノル君が言った「クジラさん僕らが良く見えるようにしてあげるよ。」

 

「なに!そんな事が出来るのか?」「モチロンさ!」みんなは早速準備に取り掛かった。くじらはいったいどうするのか興味津々で見ていた。するとみんなはのんびりと釣を始めたのだった。「おいおまえ達、いったい何をしているんじゃ?早く見えるようにしてくれんか。」

 

モモタ君が言った「慌てない、慌てない。クジラさんは昼寝でもしててよ。」クジラは何が何だか判らないまま、言われたように昼寝をすることにした。しばらくすると、みんなに起こされた。「さあ、用意が出来たよ」マナタ君が言った。

 

「いったい何をしようと言うんじゃ?」「これだよ。」ムタ君が言いながら両手をあげた。その手に持っていたものは、何とクラゲだった。「そんなものどうするんじゃ?」ミノル君は言った「コンタクトレンズを作るのさ」

 

みんなはクジラの目に貼り付けるクラゲを釣っていたのだ。クラゲの足を取って頭だけにすると、クジラの目にくっつけてみた。サイズはばっちりだ。「どう?クジラさん。」ミノル君が聞いた。「なんと!良く見えるぞ!あんなに遠くまではっきりと見える!すばらしい!!!」みんなは得意げに笑った。

 

「ありがとう、ありがとう。これでもう変なものを食べてお腹をこわさなくてすむよ。」クジラは何度もみんなにお礼を言いながら海の中へ帰っていった。

「クジラさんもう大丈夫かな?」モモタ君が言った。「大丈夫だって!」メグロ君が言った。

 

「あのクジラさんは直ったけど、もし他にも目の悪いクジラさんが居たら、ちょっと恐いなあ。」ミノル君が言うと「その時はまた直してあげれば良いじゃん!」とムタ君が言った。「さあ冒険の続きだ。出発しようぜ!」

 

マナタ君の掛け声でまたみんなの冒険の続きがはじまった。