森の奥深くに古い洋館があった。噂ではそこにはなぞなぞを出す老人がいて、そのなぞなぞが出来たらすばらしい宝物が貰える。ただし、出来ないときは二度と外へは出られないのだという。その噂は真実かそれとも嘘か。そんな話を聞いて、冒険クラブのみんなが放っておくハズが無かった。

 

 やっと日曜日になって、その館を探検する日がやってきた。冒険クラブのメンバーは一人、また一人といつもの公園に集まって来た。しかしいつも早めに来るミノル君がいつまでたっても来なかった。心配したみんなは家まで迎えに行くことにした。

 

なんとミノル君はおたふく風邪にかかっていた。「みんなごめん。僕今日は行けなくなっちゃった。」ミノル君は腫れて真ん丸になった顔で言った。「病気じゃ仕方無いよ。全員そろってなくちゃ意味が無い、今回は諦めよう」マナタ君は言った。しかし5人とも残念さは隠しようが無かった。

 

 とその時、「今度はどこへ探検に行くの?」という声がした。ミノル君の妹のミドリちゃんだった。「なぞなぞの館だよ」ムタ君が言った。「あたしも行きたい!」ミドリちゃんが言った。「でもミノル君もこんなだし、今日は中止だよ。」マナタ君は言った。

 

それを聞くと目を輝かせてミドリちゃんが言った。「お兄ちゃんの代わりにあたしが行くわ」それを聞いてメグロ君があわてて言った「だめだめ、君は女の子じゃないか!」「そんなのおかしいわ!女だから駄目だっていうの?」ミドリちゃんが言うと、困り顔のメグロ君に代わりマナタ君が「そんなことはないさ、勇気があれば誰でも大丈夫だよ」と笑って言った。

 

「あたし勇気ならあるわ。だから一緒に行く!!」ミドリちゃんは言った。それを聞いたみんなはミノル君の方を見た。すると反対すると思っていたのに意外にも「ミドリなら大丈夫!本当に勇気があるぜ。僕の代わりに連れていってやってよ、きっと役に立つから」

 

少し考えてマナタ君は言った「わかった。ミドリちゃん、ミノル君の代わりに今回の冒険に参加してもらうよ。」そしてムタ君、モモタ君は快く、一人メグロ君は渋々同意した。「チェッ、女の子に冒険なんて出来るのかよ・・」メグロ君は小さい声でつぶやいた。

 

ミノル君に対する信頼が篤いのでついつい不満を言ってしまうのだった。それが聞こえたのはマナタくんだけだった。マナタ君はメグロ君の肩を叩いて、「もしかしたら、彼女が今回のヒロインになるかもしれないよ。」と笑顔で言った。

 

 そういう訳で今回の探検はミノル君の代わりにミドリちゃんを入れた五人で行くことになった。森の中に建つ洋館はまるでお化け屋敷のように見えた。あたりには、他の家どころか人影さえ見当たらない。

 

館を見上げて「なんだか薄気味悪いね」とモモタ君。「怖いんなら帰っても良いぜ」とムタ君がからかって言うと、「さあ、早く入りましょ!」ミドリちゃんが元気に言った。みんなも口々によし行くぞ!と言って洋館の入り口へと向かった。

 

 ドアは真っ黒で大きかった。マナタ君がノックしてみたが返事が無い。「誰もいないんじゃないの?」「あんな噂は嘘だったんだよ」声をひそめてムタ君、メグロ君が言った。するとミドリちゃんが言った「入ってみましょうよ!」メグロ君が「えっ、それはちょっと・・」と驚いた顔をして言った。

 

ミドリちゃんは「あら、恐いのかしら?」と言った。そう言われてメグロ君は「恐いもんか!」と言い、ドアノブを握るとゆっくりと廻してみた。ドアは音も無く開いた。中は薄暗く埃っぽかった。五人は恐る恐る中へ入って行った。

 

 全員が中へ入ったその時、突然ドアが大きな音を立てて閉まった。音にびっくりしたモモタ君が慌ててドアを開こうとしたがドアはビクともしなかった。一番の力もちのメグロ君がやってみてもピクリとも動かせなかった。「閉じ込められたみたいだな」マナタ君が言った時、どこからともなく声が聞こえてきた。

 

「ようこそ、冒険クラブの諸君!そのドアはもう開かない。あきらめるんじゃ。おや?今日は一人だけいつものメンバーじゃない様じゃの?」その声は高い天井に響き、まるでお化けの声のようだった。マナタ君は言った「なぜ僕たちのことを知ってるんだ?」

 

「ふふ、わしは何でも知っているよ。お前たちがいつか来ることもな。ただ残念なのはいつものメンバーじゃないことじゃ。そんな女の子じゃ彼の代わりにはならんじゃろうからな。」ミドリちゃんが言い返そうとしたとき、マナタ君が言った「そんな事言ってていいのかい?この子は僕らの秘密兵器だぜ!」すると声は「まあいい、お手並み拝見といこうかの。」

 

 「さて、ルールは簡単じゃ。これから私がなぞなぞを1問づつ3回出す。1問目が正解したら奥のドアと今入ってきたドアが開く。入ってきたドアから出れば帰れるが、奥のドアに入れば2問目に挑戦しなければならない。そして2問目に正解したら、また2つのドアが開く。

 

そうしてすべて正解したらご褒美をやろう。しかし一つでも不正解のときはお前たちはもうこの館からは出られないことになるのでせいぜい気を付けてな。さあ準備はいいかな?」楽しげに声は言う。マナタ君はみんなに向かい「みんな、用意はいいな?」すぐに「おう!」「いつでもいいぜ!」と元気な声が返ってきた。

 

 声が言った「それでは第一問。『目の前にあるのに見えず、触れもしない。それなのにもし無くなってしまったらとても生きていけないものはなんだ?』」その問題を聞いたとき五人は顔を見合わせて吹き出してしまった。

 

「プーッ。」「わはははっ」「あはははは」笑いながらメグロ君が言った「簡単すぎるぜ」笑われても一向に気分を害した様子もなく声は言った「答えを言うのじゃ」ムタ君が言った「空気だよ」声は言った「正解じゃ。」同時にドアが2つ開いた。進むドアと帰るドアだ。マナタ君は言った「どうする今なら帰れるけど」

 

ミドリちゃんは「奥へ行きましょ!こんな問題ならカンタンカンタン!!」ムタ君とモモタ君も言った「行こう行こう!」「それじゃあ決まりだね!!」「おう!!」マナタ君が先頭になり奥へと続くドアへ入って行く。五人が入るとまたドアはひとりでに閉まり、やはりもうあけることはできなかった。

 

声が聞こえた「ふふふ、あそこで帰ればいいものを。初めの問題はわざと簡単にしたんじゃよ。さて次の問題は難しいぞ。第二問はこれじゃ。『せっかく洗濯して干して乾かしても、びしょびしょに濡らして使うものはなんだ?』」

 

「こいつはちょっと難しいな」モモタ君が言った。みんなは頭を寄せてひそひそ相談を始めた。「一体なんだろう?」「傘じゃないか?」「長靴かもよ」「傘も長靴も洗濯なんかしないよ」「洗濯するのは服だ!」「濡らして使う服か」「海水パンツじゃないか?」「それだよ!!」「それに違いない!」

 

その答えを聞いてミドリちゃんが言った「ちょっと待って。あたしは海水パンツなんて履かないわよ!!」「じゃあ“水着”ならどうだ?」「それならOKよ!」「よし、それでいこう!」声のする方に向き直りマナタ君は言った。「水着!!」するとまた2つのドアが同時に開きそして声が言った。

 

「正解じゃ!なかなかやるな。さあどうする?次で最後じゃ。じゃが次はもっと難しいぞ!」みんなの方を向きマナタ君は言った「行こうぜ!!」みんなも声を合わせて言った「おう!!」そして奥へと続くドアに入って行った。

 

ドアをくぐるとそこは階段だった。上り始めると後ろでドアがひとりでに閉じた。やはりどうやっても開かないのだろう、今度は確かめることもせず奥へと向かった。階段は上へと続いている。

 

随分長い階段だった。途中4つのドアがあったがどれも堅く閉ざされていた。5つ目のドアが現れた。ドアは既に開いている。入ったとたん強烈な光が当てられ何も見えなくなった。「よくぞここまで来たな。やはり私が見込んだ通りなかなかやるわい!しかし最後の問題はどうかな?今までのようにはいかんぞ。」

 

だんだん目が慣れてきた。しかし、強い光より後ろは真っ暗で何も見えない。どうやら声の主はそこにいるらしい「さあ、用意はいいかな?」「いつでも来い!!」ムタ君が言った。「ほう。元気がいいな。しかしその元気もいつまで持つかのう?」

 

「それでは第3問目じゃ、『そこのテーブルに20個のタマゴがある。』その時向けられていたライトが急に消え、少しはなれたところにあったテーブルを照らし出した。それと同時に奥の様子がうっすらと見えた。声の主は老人のようだ、座っているのは車椅子に見える。そして組んだ手にあごを乗せ、じっとこちらを見ている。その周りには取り囲むようにして背の高い男たちが4〜5人立っている。一言も話さず、また微動だもしない。まるで銅像のようだ。きっと声の主のボディガードなのだろう。

 

テーブルの上に置かれたかごにタマゴが山になって置かれていた。『この中の5個はゆでタマゴ、その他の15個は生タマゴじゃ』この中から殻を割らずにゆでタマゴだけを全部探し当てろ』これが最後の問題じゃ。果たして正解出来るかな?」

 

「見事にゆでタマゴを見つけたものはここから無事に帰してやろう。じゃが外れたものは・・・ふふ、判っているな、ずっとここで働いてもらうぞ!」みんなはそれを聞き、ここでずっとはたかなくてはならないことを想像してゾ〜っとした。

 

そんなみんなの気持ちを振り払うように大きな声で「力を合わせればきっと出来るさ!!」マナタ君は言った。そして早速相談を始めた。強がって言ったものの実は見当もついていなかった。

 

「もしかしてゆでタマゴと生タマゴって殻になんか違いがあるのかもよ」とモモタ君が言うと、手にとって見て「そんなの無いよ」とムタ君。「重さが違うのかも」とメグロ君が言うと二つ持ったマナタ君が「同じだな〜」「ライトで透かして見たら判るんじゃない?」とムタ君が言うと、みんなで透かしてみたがさっぱり判らない。

 

「こんな時、ミノル君がいればなあ。なんか区別できるような道具を持っていたかもしれないのに」メグロ君が悔しそうな顔でつぶやく。「こうなったらもう勘でやってみるしかないな!」「それじゃあみんなで一つづつとって、それで勝負だ!!」

 

それぞれが意を決してタマゴを選ぼうとしたとき、一人面白そうにみんなの話を聞いていたミドリちゃんが言った。「ちょっと待って、みんな本気で言ってるの?」あきれた顔で聞く。「他に方法が無いんじゃ仕方ないよ?見ても判らないんだよ。」モモタ君が言った。

 

マナタ君は「大丈夫、もし君が外れて僕が当たったら、君にそのゆでタマゴを上げるから」みんなもうなづく。全員がミドリちゃんだけはなんとしても無事に帰すつもりなのだ。

 

そんなみんなの必死の思いもなんのその、なぜか余裕のミドリちゃんは「確かに見ただけじゃ判らないわね。でも大丈夫、みんな一緒に帰りましょっ」メグロ君が言った「それじゃあ他にいい方法があるって言うのか?しかも割らないで!」

 

するとミドリちゃんはあっさりと言った「回してみればいいのよ!」4人は一斉に叫んだ「回すぅ?」「そう、回してみるの。もし回してみてよく回ればゆでタマゴ、回らなかったらそれは生タマゴなの。」「それって本当?」マナタ君は言った。

 

「本当よ!だっていつも作っているんだもん。絶対よ!」「よし、みんなでやってみよう」そしてみんなでタマゴを回し始めた。「だめだ全然回らないや。生タマゴだな」「おお、回る回る。ゆでタマゴ発見!」

 

そしてまもなく5個のタマゴが選び出された。それを見て老人が言った「選び終わったようじゃの?いまならまだ取り替えてもいいぞ」最後に確認のためもう一度ミドリちゃんが全部を回してみた。そしてミドリちゃんが言った「このままでいいわ!!」

 

「そうかそうか、それでは一つづつ手に取り、自分の頭で割ってもらおう。もしも生タマゴが混ざっていたら、その子はタマゴまみれになるがな。さあ手に取れ!!そして頭で割るのじゃ!!」

 

選び出されたタマゴ目の前にしてみんなは顔を見合わせゴクリと唾を飲み込む。「ぼくらはミドリちゃんを信じているよ」マナタ君は言いながらタマゴを手に取った。それにならいみんなもそれぞれ手に取った。

 

マナタ君が言った「みんな一斉にやろう。」緊張した顔が一斉にうなづく。「行くぞ!せぇ〜のっ!」

 

“ゴン”“ゴン”“ゴン”“ゴン”“ゴン”

 

なんと全部ゆでタマゴだった!周りを見回して「やったあ、全部ゆでタマゴだ!!」モモタ君が言った。他のみんなも大喜びだ。するとここで強烈に照らされていたライトが消え、部屋全体が明るくなった。

 

その部屋は思っていたよりも広くはないが、古いけど高級そうな家具が置かれ、今まで気がつかなかったけどふかふかの絨毯が敷き詰められてイメージで言うなら“社長の部屋”のようだった。

 

マナタ君はさぞ悔しがっているだろうと老人を見てみた。ところが老人は悔しがっているどころか優しい目をして微笑んでいた。老人は言った「よくぞ正解した。見事じゃった!!」そして側に立っている男の人に向かって言った。「あれをここへ。」その男の人は「はっ」と言うと奥の金庫の方へ歩いていった。

 

そしてスーツケースを出してきて老人の前へ置いた。すると老人はみんなの方に向き直り、言った「さあ、ここへ来なさい。」みんなは用心しながら進み出た。「よくぞ恐怖に負けず、知力を絞り、仲間を信じてここまで来た。これはその勇気に対する称賛の証じゃ」

 

そう言うとスーツケースを開けてこちらに向けた。中には5個のメダルが入っていて、照明の光を反射してまばゆいほどの金色に光っていた。「さあ、一つづつ取りなさい」手に取ってみるとそのメダルは、ずっしりと重かった。みんなは顔を見合して「わあっ」と声を上げた。

 

しかし、マナタ君は素直に喜べなかった。この館に住んでいるのは、子供をいじめて楽しむひどい奴と聞いていた。それなのに、今目の前にいる老人はとてもそういう風には見えない。そんな気持ちを察した老人は言った「私のことが気になるかな?」マナタ君だけでなく全員がうなづく。

 

「私は実を言えば少し前まである会社の社長をやっていたのじゃ。しかし今は息子に会社を任せ引退したんじゃよ。ところがいざ引退してみるともう毎日、毎日退屈でな。そんな時じゃ、君ら冒険クラブの噂を聞いたのは。

 

何でもたいそう勇気のある子供たちだと言うことだった。しかも信じられないような冒険をしていると言う。そこで試してみることにしたんじゃ。うわさは本当なのかとね。君らの住んでいるこの町にあるこの森の中の館を買い取り、君らにこの館の噂が伝わるようにしたのじゃ。

 

当然君らの他にも大勢の子供たちにこの噂は広まった。何人もの子供がこの館を見に来よった。でも遠くからただ見ているだけで近づいてさへ来るものはいなかった。実際に中まで入ってきたのは君らだけじゃよ。さすが冒険クラブじゃの。」

 

そこで思い出したように「ところで、その女の子は誰じゃな?私の持っている資料では冒険クラブは男の子5人だと書いてあるが・・・」「わたしはミノルの妹のミドリです。今日はお兄ちゃんがおたふく風邪で来られないから代わりに私が来たんです。」

 

「おお、そうじゃったか。君の勇気も大したもんじゃった。ちっとも怖がっていなかったしな。特に最後の問題ではすばらしかったぞ。」ミドリちゃんは顔を赤くし、照れながら笑顔を返した。

 

「さて、そろそろお別れの時間じゃ。君たちはそこの扉から帰るといいじゃろう。私も家に帰って孫達を君たちのような勇気のある子供に鍛え直さないといかんからな。もう退屈だなんて言ってられんよ。」

 

みんなはおじいさんに別れの言葉を言い、教えられたドアへと向かった。ドアを開けてみるとそこは滑り台のようになっていた。すべり台のレーンの上には所々に電気がついていて明るく、まるで高速道路のようになっていて怖さなど微塵も感じなかった。

 

あっという間に滑り降りて外へ出た。その出口は館の裏手にあり、内側からからしか開かないようになっていた。みんなはこの話を聞かせようとミノル君の家へと向かった。

 

みんなで代わる代わるミノル君に今回の冒険の話を聞かせた。話を終えてメダルを見せるとミノル君は「いいなあ、僕も行きたかったよ」と残念そうに言って、みんなのメダルを少しだけうらやましそうに眺めた。

 

そして「でも僕の代わりにミドリが行って良かった。僕じゃ最後の問題が判らなかったからな」と言って笑った。その時いつのまにかいなくなっていたミドリちゃんが部屋に入ってきた。

 

「お兄ちゃん、はいこれ!」差し出されたものはさっきのメダルだった。しかしこのメダルはちょうど真ん中あたりで切断されていた。「私の分はお兄ちゃんと半分こね!」ミドリちゃんはニコニコして言った。

 

「大切なメダルをこんなにしちゃって良いのかい?」ミノル君はおたふく風邪のために真ん丸の顔に真ん丸の目をして言った。「だって本当はお兄ちゃんが行くはずだったんだもん。」「ありがとう。大切にするよ」

 

それまでなぜかモジモジしていたメグロ君が、突然大きな声で言った「ミドリちゃん、ごめん!」ミドリちゃんはびっくりと不思議そうが混ざった顔で聞いた「えっ、何が?」「俺、ミドリちゃんのこと女だからって馬鹿にしてたんだ。でも君はとても勇気があるし、りっぱだった。もし君がいなければ、最後の問題は俺たちには解けなかったよ。どうか疑っていた俺をゆるして!!」

 

「なあんだ、そんな事?フフフッいいわ許してあげる!その代わりまた今度冒険に連れていってね!」「うん、判った。みんなもいいよな?」「おう、モチロンさ」みんな大きな声で答えた。そしてみんなで楽しそうに笑った。