深夜から降り始めた雪が積もり、朝起きてみると窓の外は一面の銀世界だった。その日は日曜日と言う事もあり、冒険クラブのみんなは誰からともなく、朝早くからいつもの原っぱに集まっていた。

 

「わーい雪だ雪だ!」「こんなに積もるの久しぶりだね!」みんな大はしゃぎだ。でもただ一人モモタ君だけが「寒い、寒い」と震えている。そんなモモタ君を狙ってマナタ君が雪団子をぶつけた。「ひゃ〜冷たい!」そうなるとモモタ君も寒がってばかり入られない。

 

せっせと団子を作っては誰彼構わず狙って投げる。そうしてひとしきり雪合戦をし終わると、身体が温まってモモタ君もすっかり元気になっていた。

 

 「ねえ、雪だるまを作ろうよ!」モモタ君が言うと、みんなも「よし、デッカイの作ろうぜ!」と協力して作り始めた。ゴロゴロゴロゴロ、ゴロゴロゴロゴロ。出来上がってみると大人の背くらいの大きさになった。「次は顔だ!」目は泥団子で作り、鼻は枯木の枝をさした。口はすぐそばに落ちていたテレビのリモコンをくっつけた。

 

右手はモップで左手は箒。あとはバケツをかぶせれば完璧だけど、無かったので工事で使うカラーコーンが壊れて捨てられていたのを見つけてそれをかぶせてみた。「カッコイイーッ!」「なんだかすごく凛々しい顔つきだよね」「ちょっとクリスマスパーティーみたいだな」みんなは歓声を上げた。そのあとは朝ごはんと、昼ごはんを食べに家に帰ったものの、またすぐに集まってその日は陽が暮れるまで遊んだ。

 

 次の日はとても良い天気だった。学校が終わった後も校庭でしばらく雪合戦を楽しんだ。ふと気がつくと、校門のすぐ脇のところになんと昨日作ったあの雪だるまがあった。「あれ、変なの!なぁ、あれ昨日俺たちが作ったゆきだるまだよなぁ。」ムタ君が言うと

 

ミノル君も「ホントだ、いったい誰が運んできたんだろう?」と不思議がった。「案外自分で歩いてきたんだったりして」とマナタ君が言うと「まさか〜」とメグロ君が言った。でもすぐに感心は雪合戦に戻り、雪団子を相手にぶつけることに夢中になった。

 

しばらくすると、わいわい騒ぐ声が聞こえてきた。見ると数人の子供たちが「なんだこの雪だるま、随分デカいな」「僕達が作った奴より大きいなんて生意気だ」「壊しちゃえ、壊しちゃえ!」と雪だるまを蹴り始めた。

 

マナタ君たちは急いで駆けつけた。「おい、お前達!俺たちが作ったその雪だるまをどうするつもりだ?」メグロ君が言った。壊そうとしていた子供達が振り返って見ると、学校でも有名な冒険クラブの面々が揃って腕組みをして睨んでいる。

 

それに気づいた子供たちは、急に態度を変えて「いやぁ、どうりで立派な雪だるまだと思ったよ」とか「かっこいいよね!」などといいながらその場から逃げていった。

 

「なんだなんだあいつらは?」居なくなってから元気になったモモタ君が言った。「でも、壊されずに済んで良かったな」雪だるまを見ながらマナタ君が言った。そして改めて“一体誰が運んだんだろう?”みんな不思議に思った。

 

それから1週間ほど経った。あれだけ積もっていた雪も今ではすっかり消えてしまったが、あの雪だるまだけは少し傾きながらも、まだ溶けずに頑張っていた。「大分痩せてきちゃったな〜」ミノル君が言うと「でもこいつは頑張ってるよ」と周りを見回しながらムタ君が言う。他にもいくつかあった雪だるまは、既にみんな溶けてしまい、小さな雪のかたまりが残っているだけだったのだ。

 

その日もマナタ君たちは下校のチャイムが鳴るまで校庭で遊んでいた。気がつけば周りで遊んでいた他の子供達は、いつの間にか居なくなっていた。暗くなり始めた校庭を後にして、みんなで帰ろうと門を出ようとした時だった。

 

「・・・がとぅ」声が聞こえた。「誰か何かいった?」ミノル君が言った。「え?」ムタ君が聞くと「いまなにか聞こえたよね?」モモタ君も言う。「”ありがとう”て言ったように聞こえたな」マナタ君も言い出した。

 

「どれどれ・・・」みんなは立ち止まり耳を済ませた「・・・ありがとう」。聞こえた!みんなは一斉に顔を見合わせた。慌てて周りを見回してみるが、もちろん自分たちしか居ない。「誰の声だ?」メグロ君が言うと「もしかしてお化け?」モモタ君が泣きそうな声で言う。

 

すると「お化けじゃないよ、あたしよ」今度もまたはっきりと聞こえた。声のする方を見てみたが、そこにあるのは雪だるまだけで、他には誰もいない。「え、どこ?」まだキョロキョロしていると、カラーコーンの帽子がずり落ちるのを箒の腕で直しながら、「あたしだってば!」雪だるまが怒った口調で言った。

 

雪だるまが話しているのだと判ると、みんなはまた顔を見合わせて、「うわ〜っ!」一斉に驚きの声を上げた。「もう何驚いてるのよ」雪だるまの方はあきれた様子でモップと箒の腕を腰に当てている。

 

「な、なんで雪だるまが喋ってるの?」ムタ君が恐る恐る聞くと「え〜っ、何言ってるの?雪だるまってみんな喋れるんだよ。知らなかったの?」それを聞いて「うそ〜っ!」全員が声をそろえて叫んだ。「本当よ、だってほら、あたし喋ってるじゃない」みんなはあまりのことにポカンと口をあけている。

 

いち早くショックから立ち直ったマナタ君が「でもさ、そんな話初めて聞いたよ。」「実際に話してるのも初めて聞いたし」とミノル君。雪だるまは腰に手を当てたままこっちをじっと見てる。

 

その様子を見てモモタ君が「なんだかあの雪だるま怒ってない?」とヒソヒソ声で言うと「でもなんで怒られてるんだ俺達?」とメグロ君。「喋れることを知らなかったからかなぁ?」ムタ君が言うとみんなはまた恐る恐る雪だるまのほうを見た。

 

すると雪だるまは腰に当てていたモップと箒をはずしてニッコリ笑った。「な〜んてね、実はあたしも人間と話しするの、ホントは初めてなんだ〜。先生にも人間に話しかけるな!ってキツゥーく言われてるしね。」

 

「あ〜、びっくりした。だって今まで雪だるまが話しているのなんて聞いたことないもん。」モモタ君が言うとみんなもつられる様にして聞き出した。「なんで人間と話しちゃダメなの?」「先生って何の先生?」「生徒は他にもいるの?」と矢継ぎ早に質問を浴びせ始めた。

 

すると雪だるまはモップと箒の腕を振り上げて「うるさ〜い!」と叫んだ。「もう、一度に言われたって答えられないでしょっ!」その剣幕に驚いて「ご、ごめん」マナタ君たちは思わず謝ってしまった。

 

しばらくみんなを睨んでいたが、怒られてシュンとしたその様子に満足したのか「それじゃホントは秘密なんだけど少しだけ教えてあげるわ」と話し出した。「実はあたし、雪だるまじゃなくて雪の精なの」

 

「え〜っ、雪の精ってもっとこう、何て言うか消え入りそうで、おしとやかなんじゃないの?」思わずメグロ君が言うと、いきなり雪団子が飛んできてモモタ君の頭を直撃した。「痛って〜、僕なんにも言ってないのに・・・」頭をさすりながらいう。雪の精はノーコンだった。

 

ぶつける相手を間違えたのをテレ隠しするように帽子を直しながら「黙って聞いてないならもう教えないわよ!」「はい・・・ごめんなさい・・」メグロ君は大人しく聞くことにした。

 

「でね、春も近いことだし、あたしもそろそろ限界なのよ・・・。友達はもうみんな先に行っちゃったしね。」周りに残る雪の小山を見ながら言う。「・・・あの、ちょっといい?」おずおずとマナタ君が手を上げて言った。

 

この場を完全に仕切っている雪の精は言った。「どうぞ」「そろそろなのは判ったんだけど、それと規則を破ってまで話しかけてきたのとはどう関係あるの?」「それは・・・・・・ったのよ」ともじもじしながら急に声が小さくなる。

 

「え、なんだって?」とミノル君が聞き返し、みんなも耳を澄ます。すると今度は大きい声で「だから、お礼が言いたかったの!」みんなはあまりの大声に少し耳がキーンとなってしまった。なんだかまた怒っているっぽい。

 

耳をさすりながら「お礼って何の?」ムタ君が聞くと「あたしが壊されそうになったとき、守ってくれたでしょ?」そう言えばそんな事あったっけとみんなが思い出していると「あたしがこの町に来てすぐに、あなた達がこの雪だるまを作っているのを見つけたの。

 

それで大きくて立派だったんでこの中に入ろうって決めたのよ。雪の精はね、雪が溶けると空に帰らなくちゃいけないんだけど、こういう雪だるまの中に入っていれば溶けるまでに時間が掛かるから、長く居られるの。それで入ったんだけど退屈だったんで、ここまで飛んできたら、またあなた達を見つけたのよ。

 

そしたら他の子供たちに雪だるまを、壊されそうになっちゃって、もうこうなったらやっつけちゃおうかと思っていたところにあなた達が来て助けてくれたってわけ。おかげで私のことがバレずに済んだし、こんなに長く居ることが出来たからお礼をどうしても言いたかったの。」「そうだったんだ。でもお礼なんか良いのに、だってもともと作ったのは僕達なんだから、それを守るのは当たり前のことだしね」マナタ君が言う。

 

「でもさ雪だるまと友達になれたのって僕達が初めてなんじゃない?」ミノル君が言うと、みんなもその事に気づいてなんだか誇らしげな顔つきになった。「あ〜あ、でも最後にあなた達にお礼を言えてホントに良かった。明日になって溶けてなくなってしまう前でさ。」

 

「え、そろそろ限界ってのは、まさか死んじゃうってこと?」あわててメグロ君が聞いた。「そ、そんなの嫌だよ!折角友達になれたのに!!」泣き声でモモタ君が言う。その様子を見た雪の精はあきれたように「はぁ、何言ってるの?」

 

「だって、そろそろ溶けて死んじゃうんでしょ?」モモタ君が言うと、「もう、勝手に殺さないでよ!そろそろ雪だるまが溶けちゃうってだけよ!そしたらあたしはもうここには居られないから、空に昇って、風に運んでもらって故郷に帰るのよ。」

 

キョトンとしているみんなに「だから、雪だるまが溶けたら死ぬんじゃなくて、故郷に帰るだけなの!」「そ、そうなんだ」死なないと判ってみんなはホッと胸をなでおろした。「でも、君とはもうお別れって事なんだよね」マナタ君が言うと「まぁそう言う事になるかしら」「なんだか寂しくなるね」ムタ君が言った。

 

「・・・」「何しんみりしてるのよ。べつにこれで最後って訳じゃないんだから!また来年雪が降ったら、それに乗って帰って来るのよ。」「えっ、そうなの?」マナタ君。ミノル君も「それならそうと早く言ってよ」と言うと、メグロ君も「あ〜、良かった。もう会えないのかと思ったよ」と安心したように言った。

 

「そうかぁ、そしたらまたすぐに会えるね」マナタ君が言うと「そうね、また来年ね」みんなも元気に「おぅ!来年また会おう!」と元気に言った。

 

「・・・さぁて、そろそろ行かなくちゃ。みんなホントにありがとう、それじゃまたね」そう言うと、いままで話していた雪だるまが静かに動かなくなった。それを見て「行っちゃったのかな」ミノル君が言うと、「行っちゃったなぁ」メグロ君が応えた。「でもさ、来年になればまた会えるって言ってたじゃん。」マナタ君が言うと「そしたらまた大きな雪だるま作らなくちゃね!」モモタ君が元気に言った。

 

 翌日、学校にいつもと変わらぬ様子で子供達が次々と門をくぐってやってくる。ただいつもと少しだけ違うのは、昨日まで門の脇に頑張って立っていた雪だるまが、とうとう力尽きたかのように溶けて崩れている。

 

あんなに凛々しかった顔が、もはや見る影もない。でも3階の教室の窓から見てみると、まるで何か楽しいことがあって、顔をくしゃくしゃにして愉快に笑っているように見えた。