今日もみんなはいつもの原っぱに集まっていた。

 

ムタ君が「そう言えば最近そらどん見ないね」と言うと、メグロ君が「そういえばそうだな。いったいどうしているんだろう?」するとモモタ君が「たまには呼んで一緒に遊ぼうか?」と言った。「ねえ、笛持ってる?」マナタ君がミノル君を向いて言うと、「うん!」そういうとポケットから小さなケースを取り出した。「折れちゃうといけないから、これに入れてるんだ。」ちょっと得意そうに誰にとも無く言うと、思い切り息を吸い込み、そして吹いた。

 

“ピィーッ” 高く、澄んだ音が空に吸い込まれていく。みんなは空を見上げて待った。しばらく待ってみたがそらどんは姿をあらわさなかった。「おかしいな?」そういうとミノル君はもう一度笛を吹いた。“ピィーッ” そしてまたしばらく待った。しかし、そらどんは姿をあらわさなかった。

 

「いったいどうしたんだろう」ミノル君が言った。「何かあったのかなあ?」メグロ君も心配顔だ。「みんな、そらどんのところへ行ってみないか?」マナタ君の提案に全員が答えた「よし行こう!」。

 

 5人は気球に乗っていた。目指すはそらどんが住んでいるあの山だ。コツは判っていた。ジェット気流に乗って行くのだ。ほどなく、あの山が見えてきた。山の南側に回り込むと、見えた、そらどんの洞窟だ。

 

バーナーの火力を調節して近づいていき、洞窟の張り出した部分にロープを括り付けた重しをいくつも投げ下ろした。今度はそれを慎重に引っ張り気球を洞窟へと近づけていった。すぐ側まで近づいた時に縄バシゴを降ろし、まずはメグロ君がそれを伝って降りた。降りると自慢の力こぶを見せながら、その縄バシゴをグイと引っ張り気球を引き寄せた。やがてみんなは洞窟へと降り立った。着地するとすぐにムタ君が飛び降りて岩場に杭を打ち込み、気球がどこかへ行ってしまわないように、しっかりとロープで気球を繋ぎとめた。

 

みんなが気球から降り立った。外から見ると洞窟の中は強い日差しの影となり、真っ暗で何も見えない。もちろんみんなは恐れることも無く、中へ入っていった。「いないのかなぁ?」メグロ君が言った。「どこかに出かけているのかも?」ムタ君が言った。

 

するとその時、奥の方で何か物音がした。みんなは一斉にそっちの方を見た。「何だろう?行ってみよう!」マナタ君が言うとみんなはそろそろと奥へ進み始めた。

 

やがて目が暗さに慣れてきた。奥に何か居る。「そこに居るのはそらどんなの?」モモタ君が言ったが返事は無い。さらに奥へと進んだ。

 

見えた。やはりそらどんだ。しかし、いつものように雄々しく胸を張りたたずんではおらず。まるで、はいつくばる様な格好でうずくまっている。「そらどん!」みんなは叫んで駆け寄った。

 

「いったいどうしたんだよ?」モモタ君が言った。みんなはぐるりとそらどんを取り囲み覗き込んだ。そらどんはぐったりとして目を開けるのもやっとのようだ。マナタ君が持ってきた水筒の水を飲ませた。あまり飲めなかったが少し呼吸が楽になったようだ。そして息も絶え絶えに話し始めた。

 

「お…まえたち…来て…くれた…のか。どう…やら…病に…か…かって…しまったよう…だ…。」「なんの病気なの?」ミノル君が聞いた「わ…から…ん。」「すぐに薬を持ってきてあげるよ。どんな薬が有れば良いの?」マナタ君が言った。「人間…の薬で…は治…らない。」「じゃあどんな薬が必要なの?」モモタ君が聞いた。「い…いん…だ。もう…かまわな…いでく…れ。」「何言ってるんだよ。僕たち友達じゃないか。」ミノル君が言った。するとそらどんは目を閉じてつぶやいた「友…達か…。」。そして間をおいてから言った。「そう…だな、俺…達は友達…だ。言…おう。」誰も話さず次の言葉を待った。

 

「ここから…南にしばらく行った…ところに森がある。“魔の…森”と呼ばれていると…ころだ。そ…の森の一番奥…に長老の木と言…うとて…も大きな…木がある。も…っとも俺は…オヤッ…サンの木と呼んでい…たがな。そして…その木のすぐ…横に小さな木…がある。その…木に成る実…は“生命の実”と呼…ばれている。その…実を食べ…るとどんな病もたちど…ころに治ると言…われている。しか…しその実は3…年に一度しか実をつけ…ないとも言われてい…る。一度…になる実…は5個だ…けだ…とも。だか…ら取りに行ってもら…っても有るかど…うかさへも判…らないのだ。」「行ってみなければ判らないじゃないか。」ムタ君が言った。

 

「よし、すぐに行こう。」マナタ君が言うと「それ…に、お前…たちは飛…べない。その森は危…険な動物や植物がたく…さんいるのだ。一度入った…ら出られな…いとも言われてい…る。歩い…て入るに…は危険すぎ…る。有るかどう…かも判らないもののた…めにそんな危険を冒さ…せるわけには行かな…い。」

 

「だってその実が無ければ、そらどんは死んじゃうんでしょ?」ミノル君が言った。「誰で…もいつか…は死ぬ。だか…ら、気にする事…はない。」「そんなの嫌だよ!」モモタ君が叫んだ。「おま…え達、俺…の事はもう放ってお…いて、帰…れ!」そして、急に遠い目をして、「俺…の枝は今…でも空い…ている…のだろう…か?」そういうなり、そらどんは動かなくなってしまった。

 

「わあぁぁぁっ!そらどん死なないでぇぇ!」モモタ君が言った。「死んじゃ嫌だよぉっ!」ミノル君が言った。「慌てるな!まだ死んじゃいない、気を失っているだけだ。」マナタ君が言った。「でも、このままじゃ死んじゃうぞ。」ムタ君が言った。「行こう!魔の森へ。」みんなはお互い見詰め合いうなづいた。

 

みんなは気球に乗り南へ向かっていた。しばらく行くと前方に暗い森が広がり始めた。あそこが“魔の森”に違いない。森の中央付近に巨大な木が立っているのが見えた。近づいて行って下を見た。茂った枝葉に遮られ下がどうなっているのかわからない。気球で降りられるようなところは無く、そらどんが言っていたとおり徒歩で入るしかなさそうだ。森の端まで戻り、みんなは気球を降りた。

 

目の前に暗い森が広がっている。森の上から突き出すようにして巨大な木が見える。「あの木を目指して進もう!」マナタ君は言い、みんなは進み始めた。森に入るとすぐに辺りは薄暗くなり始めた。茂りすぎた枝葉のために太陽の光が通らないのだ。しかしそのおかげであまり草が生えておらず、歩きやすかった。

 

「何だか、気味悪いね。」モモタ君が言った。「ほんと!お化けが出そうだよ。」ミノル君が言った。「変な事いうなよ。恐くなっちゃうだろ!」あまり怖そうじゃない様子でメグロ君が言った。5人そろっているので心細いことはないが、用心しながら奥へと進んでいった。

 

歩き始めてから1時間ほど経ったころモモタ君が言った。「ねえ、何か良い匂いがしない?」そういえば、みんなは朝食を食べたきりで今はもうお昼をとっくに過ぎている。「なんだかおいしそうな匂いがするなぁ。」メグロ君はしきりに小鼻をヒクつかせながらに言った。「ちょっと見に行ってみようよ。」ムタ君が言うと、5人はその匂いに誘われるようにふらふらと歩き始めた。

 

「良い匂いだなあ。ああ、これはプリンの匂いだね。」ミノル君が言った。「ええっ?違うよ。これはハンバーグの匂いだよ。」とマナタ君が言う。「何言ってるんだよ、カレーの匂いじゃないか!」ムタ君が言った。「ああ、僕の大好きな肉じゃがだぁ」モモタ君も言った。メグロ君もしきりに「から揚げ、から揚げ」とつぶやいている。そうこう言い合いながらみんなは引き付けられるように進んで行った。

 

「あ〜、だんだん、匂いが近くなってきたぞ。」メグロ君が言った。もう、まもなくと言う時、森が急に開けた。そこでは、1本の木を中心にして半径10m程の円状に空間が開けていた。匂いはその真ん中に1本だけ生えている木のあたりから発しているようだ。

 

「ああ、あそこだ。あそこにプリンがあるんだ。」ミノル君が言った。「だからあれはハンバーグだって!」マナタ君が言った。みんなはそれぞれに違う香りを嗅ぎながら、ふらふらと近づいていった。そこは森の中にもかかわらず砂利が敷いてあるのか、足元からジャリジャリと音がしたがそんなことは誰も気にならなかった。

 

食いしん坊のメグロ君は誰よりも先に食べてやろうと思いつき、走り出そうとした。その瞬間何かにつまづいてハデに転んでしまった。「痛てーっ!なんだよこんな時に?」メグロ君はしたたかに打った腕をさすりながら、何に躓いたのかと足元を見た。

 

丸いものがぼんやり見えた。「ん、何だこれ?」もっとよく見て見た。それは何かの動物の髄骸骨だった。「うわああああああああぁぁっ!!!」急いで周りを見まわすと辺りは一面骨で覆い尽くされていた。「な、何なんだよ、ここは?」気がつけば先ほどまでのおいしそうな匂いはまるで肉が腐ったような匂いに変わっている。

 

このことを知らせようとみんなの方を見ると、ヘラヘラとまるで夢遊病者のような顔をして、まだふらふらと歩いている。メグロ君はみんなが進んでいくその先を見た。そこにはぼんやりと青白く光を放つ木があった。そしてその木の周りでは何と数え切れないほどのツタがまるで触手のようにうごめいていた。

 

よく見ると木の幹には溶けかかった何頭もの動物が、まるで縛り付けられたように縛りつけられて、しかもほとんど溶けかかっている。その木に向かってみんなは進んでいるのだ。

 

「みんな、そっちに行っちゃ駄目だ!」メグロ君は叫んだ。「メグロ君、そんな事言って一人占めしようたって駄目だからね。」ヘラヘラと笑いながらモモタ君が言った。他のみんなも聞こえているのかどうか判らないヘラヘラ顔でフラフラと木に近づいていく。

 

木のところまであと数メートルしかない。「え〜い、仕方ない!」メグロ君は急いでみんなのところまで走った。そして、みんなの腕や服をつかむなり後ろへ放り投げた。

“むんず、ポーン”

“むんず、ポーン”

“むんず、ポーン”

“むんず、ポーン”

 

「いててっ!何するんだよ?」マナタ君が言った。みんなも、頭やお尻をさすりながら文句を言っている。」「みんな、目を覚ませ!足元を見てみろ!」みんなはあと少しのところを邪魔されてブツブツと文句を言いながらも下を見てみた。

 

「ん、なんだこれ?……うわっ、ほ・骨だああああぁっ!!」さらに回りを見回して呆然としている。メグロ君は言った「それだけじゃないぞ。あれを見てみろ!」指差す方を見るとなんとも気味の悪い木が立っている。「おえっ。何だよあの木?」ムタ君が言った。「おい、周りでなんか動いているぞ。」ミノル君が言った。「あそこに引っかかっているのは鹿みたいだ。」モモタ君が言った。

 

「それにこのひどい匂いは何だ?」マナタ君が言った。「さっきまであんなに良いにおいがしてたのに・・・」とミノル君。「たぶんあの木はどうやってか動物の神経を麻痺させて、それぞれが一番良い匂いを嗅いでいると錯覚させてるんだ。そして誘いこんだ動物を捕まえては自分の栄養にしているんだ。」メグロ君が言った。

 

「食虫植物のような奴かな?」ミノル君が言った。「でもなんでメグロ君だけ正気に戻れたの?」マナタ君が聞いた。「おや、こんなところにから揚げがあるのは変だなって思ったら、正気に戻ったんだよ」と本当は食い意地が張りすぎて転んだ事は恥ずかしいのでごまかした。

 

「さすがだなぁ、でももしメグロ君が気がついていなかったら今ごろ僕たちもああなっていたかも。」ムタ君が木の方を見ながら言うと、みんなも木に引っかかっている鹿の残骸を見てブルブルっと身震いした。

 

「さあ、こんなところでグズグズしてられない、行こう!」マナタ君を先頭に歩き始めた。・・・と思ったら急に立ち止まった。一列に並んで歩き始めていたみんなは次々に前の人にぶつかってしまった。「いってぇ!」「何で急に立ち止まるんだよ?」「なんだ、なんだ?」みんなは口々に文句を言った。

 

「道が判らないや…」マナタ君が言った。「そう言えば、匂いにつられて夢中で歩いてきちゃったもんな。」メグロ君が言った。「どうしよう?」モモタ君が言った。「心配ないよ、僕が見てくる。」ムタ君は言うなり近くの木に登り始め、するすると上の方まで昇っていき、やがて下からは見えなくなってしまった。

 

しばらくするとやっとムタ君が降りてきた。「この森の木はどれもみんな高い木ばかりだったから随分高いところまで行かないと判らなかったよ。」「それでどっちだか判った?」マナタ君が聞くと「モチロン!あの、一番高い木はこっちの方角ににあったよ。」

 

ムタ君が指差した方向に向かってみんなは歩き始めた。30分ほど行くと右の方で何かが動いた。「なんだ?いま何かいたぞ!」ミノル君が言った。今度は左の方で走るような音がした。「いっぱい居るみたいだよ・・。」モモタ君が言った。

 

みんなは立ち止まりまわりを見回した。すると、周りからうなり声のようなものが聞こえ始めた。「なんだか、犬の声みたいだな。」メグロ君が言った。「野犬かも?」ムタ君が言った。「みんな離れないで固まって!」マナタ君が言った。みんなはすぐにマナタ君の周りに集まった。「あ、でもこれでまた行く方向が判らなくなっちゃうかも?」ミノル君が言うと「こうすれば大丈夫!」ムタ君は言うなり素早くポケットの中にあった白と青のビー玉を進む方向に向けて2個置き、それを足で踏みつけ地面にめり込ました。

 

「これで、白い方に向かっていけばちゃんといけるよ。」「でもその前にここを何とかしないとな。」メグロ君が言った。さっき遠巻きにしていた声が段々近づいてきているようだ。

 

「どうやって逃げよう?」ミノル君が言った。「今考えているんだ。」マナタ君が言った。「そうだ、木に登ろう。犬は登れないでしょ!」モモタ君が言った。「それだ!」みんなは早速それぞれ近くの木に登り始めた。それを察したのか、すぐに黒い影が襲い掛かってきた。

 

みんなは枝に必死にしがみついた。見てみるとやはり野犬だ。全部で10頭近くいる。鋭い牙をむき出してけたたましく吠え立てている。「みんな、もっと高いところまで登って!」ムタ君が言った。そのとき、少しはなれたところで別の獣の声がした。

 

野犬達はその声を聞くとこちらには興味を無くしたように。その声のした方に向かってうなり声をあげ始めた。「どうしたんだろう」メグロ君が言った。「それにさっきの声は何だ?」マナタ君が言った。野犬達は落ち着かない様子でうなりながらあたりを歩きまわっている。

 

また、さっきの声が聞こえた「グオーッ!」野犬達は今度は姿勢を低くしてうなり始めた。一頭の野犬が吠え始めた。するとその方向から大きなクマが現れた。「グオーッ!」一声叫んでクマは野犬の群れに飛び込んでいった。野犬達もクマに向かって攻撃を始めた。

 

野犬たちは初め、くまの周りを取り囲むように走り回り、すばらしい連係プレーで四方八方からクマに襲い掛かった。初めのうち野犬たちはクマの腕や背中に4匹くらいでぶら下がってクマをよろめかせたりとかなり優勢だった。

 

しかしクマは大きなカギ爪のついた手で1頭、2頭と打ち据えていき徐々に形成は逆転していった。地面に叩きつけられた野犬達は大半がそのまま動かなくなった。気がつけばあんなにたくさん居た野犬は既に半分近くに減っていた。

 

やがて敵わないことを思い知った1頭が逃げ出すとそれを追う様にして残りも逃げ出していった。倒れたまま動かない野犬は全部で4頭だった。野犬が逃げていくのをしばらく見送っていたクマは、引き返してこないことを確かめると、今度はみんなの見ている下で野犬を食べ始めた。

 

木の上のみんなは固まったようにしてしばらくそれを見ていた。マナタ君はハッと我に返った。他のみんなもやっとお互いの顔を見回し始めている。マナタ君は口に1本指を当て音を立てないようにジェスチャーで伝えた。みんなはそっと親指と人差し指で丸を作り、“判った”と答えた。

 

クマは相変わらず犬を食べつづけている。既に4頭目に取りかかっているようだ。「もしあれを食べてまだお腹が一杯にならなかったら?今度は僕たちの番かなぁ?」ミノル君は心の中で考えていた。みんなの方を見るとみんな同じ事を考えているのか、困ったような顔をしている。

 

しかし、クマは4頭目の野犬は半分くらい食べたところで満腹になったらしく、残りを咥えると森の中をどこかへ行ってしまった。みんなはクマの姿が見えなくなってもまだしばらくは木の上でじっとしていた。

 

「もうそろそろ良いかなあ?」メグロ君が言うとみんなも降り始めた。「すごかったなぁ!僕こういうの初めて見たよ!」モモタ君が興奮して言った。「僕もだ!」ムタ君が言った。みんなは今見た光景を興奮して話した。そして落ち着きを取り戻したころ「もうすぐのはずだ。さあ、野犬やクマが戻ってこない内に出発しよう!」マナタ君が言った。

 

みんなはさっきのビー玉のところへ行って方向を確かめ、急いで出発した。しばらく歩くうち、前方が少し明るくなっているのが見えた。「きっとあそこが目的地だよ!」ミノル君言った。誰とも無く走り始め、我先に光の中へ飛び込んだ。

 

そこは、まるでドーム付きの運動場のようだった。広さは直径約5〜60m程の円形になっている。見える幹は1本だけだから、この上にある枝葉はみんなあの木のものなのだろう。ものすごい大きさだ。そばに寄ってみると、幹は表面がゴツゴツした感じで、その太さは直径で10mくらいはありそうだ。それにここは今まで通ってきた森の中とは違って日が差し込み、そのせいか丈の低い草花も茂っていた。

 

「これが長老の木か。」みんなはその大木を見上げた。「でも、“魂の実”の成る木はどこだ?」メグロ君が言った。「本当にここで良いのかな?」マナタ君が言うとみんなは顔を見合わせた。もしも違っているなら、また暗い森の中へ入っていかなければならない。

 

そう考えてマナタ君が暗い森のほうへ顔を向けた時、突然お腹に響くような大きな声が響き渡った。「貴様達そこで何をしている?」あまりに大きな声だったので、かえってどこから声がしたのか判らずみんなは周りを見回した。

 

するとまた聞こえてきた。「どこを見ている。ここだ!」声は大木の方から聞こえてくるようだ。「あなたが話しているんですか?」マナタ君は大木に向かって言った。「そうだ。ところで貴様達何をしに来たのだ?ここは人間どもが来て良いところではないぞ!」

 

「あなたが長老の木ですか?」マナタ君が負けずに大声で聞くと、「いかにもその通りだ。しかし何故その名を知っている?」それを聞いてムタ君も大声で言った。「そんなことよりも、俺たちは“魂の実”を探しに来たんだ。」

 

「何?“魂の実”だと?貴様達、なぜ“魂の実”の事を知っている?」「友達に聞いたんです。いま、その友達が死にかけているんです。だから、“魂の実”がどうしても必要なんです!」ミノル君も大声で言った。

 

「友達のためにこんなところまで来たと言うのか…」長老の木は何か考えているのか何も言わない。メグロ君が待ちきれずに言った「早く実をくれないと間に合わなくなっちゃうよ!」

 

長老の木は言った「残念だが実はやれん!」「どうして?」みんなは一斉に聞いた。「理由は2つある。1つ目はもう実が1つしかないと言う事。2つ目は貴様達が人間だと言う事だ。」「人間だとなんでだめなの?」モモタ君が言った。

 

「この実はこの森に住み、まだ死んではならないもの達のためにあるのだ。それに、たとえこの実を食べたとしても人間には効かない。かえって毒になってしまうのだ。」マナタ君が言った「僕たちの友達は、そらどんは人間じゃない!鳥なんだ!鳥なら効くんでしょう?」「鳥だと?話にならん!なぜ、“魂の実”が何年もの間、鳥達についばまれもせずに、いつまでも木にぶら下がっていると思っているのだ?

 

鳥のような小さい動物がもしこの実を食べたとしたらたちどころに死んでしまうからだ。」「でも、もし大きな鳥だったら?大きければ大丈夫なんなんじゃない?」ミノル君が言った。「所詮は鳥。大きいと言っても限界があるだろう。たとえ鳥の中で一番大きいダチョウであってもまだまだ小さすぎる。」

 

「そらどんはダチョウなんかじゃない!もっともっと大きいんだ!」ムタ君が言った。「ばかな、ダチョウより大きい鳥だと。そんな鳥がどこに居ると言うのだ?居るわけが無いだろう。」「それが居るんだよ!そらどんは大昔に生きていた鳥のたった一羽だけの生き残りなんだ。」「生き残りだと?“古の末裔”だとでもいうのか」そこでふと思いついたように

 

「…まさか!おい、貴様達その鳥の名は確かそらどんとか言ったな?」「そうだよ」マナタ君が言った。「それは、本当の名前なのか?」「初めて会った時、名前が無いって言っていたから僕たちが付けてあげたんだ。」メグロ君が言った。

 

「名前が無い…まさかあやつか・・・。」「どうしたって言うのさ?」ムタ君が言った。「そう言えば、長老の木のことをオヤッサンの木って呼んでたって言ってたけど知り合いなの?」モモタ君が言うと、「オヤッサンだと…」「そんなことより早く魂の実をくれよ!」メグロ君が言った。

 

しばらく黙っていた長老の木は今までの大声とは打って変わって静かな声で話し始めた。「昔、1羽の鳥がいた。初めて見た時はその鳥のあまりの大きさにわしは驚いたものだ。その鳥も自分のように大きな鳥がとまれる大きな枝を見たのは初めてだと驚いていた。

 

その鳥が言うには、自分は古の末裔であり、今はもう、兄と自分の二羽しかいないと言う事だった。その鳥の名は“ライガ”と言った。わしらはどういう訳か気が合い、その鳥も毎日のように来てはいろいろな事を話した。

 

この森の中ではみんなわしのことを長老と呼んでいるが、あいつだけは無礼にもわしのことをオヤッサンと呼んでいた。他では決して許さないが、なぜかあいつにだけはそう呼ばれても悪い気がしなかった。その上あいつはおかしな事にいつも来ては止まる枝の事を自分専用の"俺の枝”などとも言っていた。」「そういえば、うわごとで“俺の枝はまだ開いているか”って言ってたよ。」とマナタ君が言った。

 

ある日ライガがいつものようにこの枝にやってきた。しかしいつものあいつとは様子が違った。悲しそうな目をし、一言も話さずただ佇んでいるだけだった。わしも話しかけなかった。しばらくそうしていてやがて帰っていった。それから程無くして噂が流れてきた。

 

2羽の内の兄の方が事故で死んだのだという。ライガはそれが自分のせいだと言い名前を捨てたというのだ。兄以外の者からその名を呼ばれたくないと言ってな。そしてそれ以来あいつはここに来なくなった。もう随分昔のことだ・・・」

 

「だから僕たちが初めに名前を聞いた時に“名前は無い”言っていたのか。」マナタ君が言った。「あいつは、ライガはどうなのだ?危ないのか?」「僕たちが洞窟まで見に行った時はぐったりして死んでるのかと思っちゃったよ。」モモタ君が言った。「そういうことであれば判った。あいつもこの森の一員。魂の実を持って行くがいい。いや、早く持って行ってやってくれ!そして、あいつを助けてやってくれ!頼む!」

 

「判りました!“魂の実”はどこですか?」ミノル君が言った。「わしの後ろへ回ってみろ。」みんなは長老の木のうしろへ回ってみた。するとそこには高さ2mくらいで幹の太さが15cmくらいの小さな木が立っていた。そして短い枝には卵くらいの大きさで、黒い真ん丸の実が成っていた。

 

「これが“魂の実”?」マナタ君がつぶやいた。「それをそのまま口に入れてやれば良い。汁を一滴もこぼさぬように噛まずに飲み込ませるのだ」長老の木が言った。マナタ君はうなづくと実を枝からむしりとった。「さあ帰ろう!」マナタ君が言った。みんなは元来た方に向かって走り出した。

 

「待て」みんなは立ち止まり、長老の気の方を向いた。まだ何か?」マナタ君が言った。「慌てるな!今、道を作る。」そして大きな声で「開けろ!」と言った。すると、木々が一斉にざわつき始め、枝葉が移動し始めた。

 

森の中に太陽の光が射し込みはじめ、やがてそれは1本の光の道となった。道の先には乗ってきた気球が小さく見えている。「やったーっ!これなら帰りはすぐだぞ!」モモタ君が言った。長老の木が言った「もしもあいつが元気になったら“おまえの枝は今も空いている”と伝えてくれ。」「必ず伝えるよ!」マナタ君は言った。そしてみんなは気球に向かって光の道を走っていった。

 

 

ある晴れた日の午後。長老の木は今日も眼下の森を見下ろしていた。すると突然力強いはばたきが聞こえてきた。そして、中でも一番太い枝にそれは舞い下りた。「ここ良いか?」そらどんは言った。長老の木は言った「気にする事はない。そこはおまえの場所だ。」そらどんはしばらく確かめるように太い枝の上を右に左に踏みしめ満足すると、昔のままの調子で言った。「オヤッサンは相変わらず元気そうだな」「おまえさんもな。」「さて何から話そうか?」「そうだな、まずはあの人間の子供たちの事から聞こうか。」そして旧友達は時間を忘れて語り合った。