その日もみんなはいつもの広場で遊んでいた。今日は鬼ごっこだ。でも普通にやったのではムタ君のことを誰も捕まえることが出来ない。なのでムタ君だけは一度に片足だけしか使ってはいけないというハンデつきだ。しかしムタ君はそれでも素早く、なかなか捕まえることの出来ない強敵だった。

 

そうしてみんなで走り回っている時、モモタ君が何かを発見した。「うわぁ、なんだこれ?」みんなもそれを聞きつけて「なんだ、なんだ」と集まってきた。「なんだかものすごく綺麗な靴が落ちてる!」

 

みんなも見てみると、そこには今まで見たことも無いような綺麗に輝く靴が片方だけ落ちていた。サイズは24cmくらいで少し小さめ、紐で結ぶスポーツタイプ。色は白、といっても普通の白ではなくまるで貝殻の内側のように見る角度によって赤や青など虹のように様々な色に見える。

 

「わぁ、きれいな靴だね、こんなの初めて見たよ」みんなも口々に言った。マナタ君が拾い上げてみてすぐに「おっ、なんだこれ、すごく軽い!」「え、僕にも持たせて、持たせて」みんなで代わる代わる持ってみると確かにものすごく軽く、まるで何も持っていないようにさえ感じられた。

 

「でも片方だけ?もう片方はどこにあるんだろう?」みんなで探してみると、少しはなれたところにそれは落ちていた。両方揃えてみると先程よりもよりまばゆいほどに輝いて見える。

 

うっとりと眺めながらマナタ君が言った「こんなきれいな靴が何でこんなところに落ちてたんだろう?」「まさか捨てたわけじゃないよね」とミノル君。「それだったら僕拾っちゃおうかな」とモモタ君が言うと「いや、誰かの忘れ物かもしれないぞ」とムタ君。「それだったらどこか目立つところにおいておいてあげないと」とメグロ君。

 

みんなでどこに置いたらいいかと周りをキョロキョロと見回していると、ムタ君が「あのさ・・、ちょっと履いてみていいかな」と遠慮がちにみんなに聞いた。ムタ君は足のサイズが小さく、この靴が丁度良さそうだった。「良いんじゃない、ちょっと履いて見たら?」みんなにも勧められてムタ君はそっと靴の中に足を入れてみた。

 

“なんだこの感じは!”履いた途端なんだか体に不思議な力がみなぎり、体は軽くまるで翼が生えたような気分になった。その場で軽くジャンプしてみると驚いたことに170cm以上あるメグロ君の頭の上まで飛び上がってしまった。周りにいたみんなは「なんだ、なんだいまの?」「ムタ君すごいジャンプだな」と驚いて言った。

 

ムタ君は興奮した顔で「この靴のせいだ・・」と言った。「この靴を履くとすごく体が軽くなるんだよ」そういうと名残惜しそうに靴を脱いだ。他のみんなも履いてみようとしたが、サイズが小さすぎて誰も履くことは出来なかった。

 

「こんなすごい靴を落としてしまった誰かは、きっと大慌てで探しているよ」ムタ君が言うと、みんなも改めて探しにきた人が分かりやすそうな場所を探した。そして結局は両方の靴の紐を結んで低い枝に渡し、ぶら下げておくことにした。これならもしも雨が降っても濡れないし、探しに来た人にもすぐに分かるだろうと思った。

 

どんな人がこの靴の持ち主なのか興味があり、しばらく先ほどの鬼ごっこの続きをしながら待っていたが、それらしい人は一向に現れず、仕方なく、靴はそのままに、その日は解散することになった。

 

翌日、みんなが学校で集まって雑談をしていると、「よお!」と言う声が突然聞こえた。誰かと思って振り返ってみるとそこには隣のクラスのテツオが立っていた。テツオは運動神経が抜群で、何をやらせても巧く隣の2組では一番足が速かった。

 

しかし、活躍できるはずの運動会では冒険クラブを筆頭にチームワークの優れた1組にはいつも遅れを取り、また徒競走では一度もムタ君には勝った試しがなかった。それが悔しくて毎日練習した頃もあったがそれでも勝てなかったため、諦めてしまいもう練習することも無くなった。そのせいで、前は僅差まで迫っていたのに、いまではもうぜんぜん相手にならないほど差がついてしまっていた。

 

「お、テツオか。何か用か?」メグロ君が言うと、テツオはニヤニヤしながらムタ君に「勝負を申し込みに来た」と言った。「勝負って?」「俺と競争しようぜ!」それを聞いたみんなは「お、練習でもしてきたか?」「がんばれ、がんばれ!」とはやし立てた。

 

そんな声には相手もせずムタ君に向かって「今度は負けないぜ!」と言った。そうなるとムタ君も負けておらず「良いぜ、いつやる?」「放課後あの原っぱでやろう」「分かった」それを聞くとテツオはまたニヤリとして自分のクラスの方へ帰っていった。何か秘策でもあるのだろうか、それとも相当練習してきたか。テツオは随分と自信がありそうな様子だった。

 

放課後になるとみんなは原っぱへと行った。するとこの勝負のことを聞きつけたそれぞれのクラスの仲間も応援に集まっていた。「お、逃げずに来たな」テツオが言うとメグロ君が「逃げるわけないだろう!」と大声で答えた。

 

テツオは随分前に来ていたらしく既に準備万端だ。その様子を見ていたミノル君があることに気づいて言った。「あ、あの靴!あのときの靴だ」「えっ」見てみるとテツオが確かにあのときの靴を履いている。

 

「あの靴はテツオのだったのか。」あの靴を履いたときの体に力が沸いてくる感じを思い出しながらムタ君は「まずいな・・・」とつぶやいた。準備が整うと二人はスタートラインに着いた。

 

ルールはスタートラインから同時にスタートし、向こうに見える大きな木の向こうを一周して戻ってくる。それを3回まで行い早く2回勝った方が勝ちというものだ。

 

周りで見守る仲間たちもみんな息を潜める。マナタ君が号令を掛ける「よーい、スタートォ!」。二人は同時に走り出した。周りのみんなは一斉に応援を始める。「ムタ君がんばれ!」「そんなやつブチ抜いてやれーっ!」「テツオ、今までの借りを返せーっ!」歓声の中、二人は矢のように走っていく。

 

途中辺りまでは良い勝負だった。いつもなら既にムタ君はテツオを抜きさり、独走しているころだ。しかし今回はそううまく行かなかった。それどころか徐々にムタ君が離され始めていた。みんなは信じられないながらもより大きい声でムタ君を応援した。向こうのクラスでも初めてムタ君に勝てそうなのでより一層の応援をしている。「ムタ君なら抜いてくれる!」みんなはそう思いながら応援した。そしてゴール!

 

結果は・・・ムタ君の負けだ。信じられないことにゴールの時点で10メートル以上も離されていた。向こうは割れんばかりの歓声を上げている。一方こちらは誰もが声を無くしていた。

 

マナタ君たちは戻ってきたムタ君に駆け寄った。「ムタ君、どうした、具合でも悪いのか?」メグロ君が言うと「最初はわざと負けて勝負を面白くしてるんだよね?」とモモタ君。それを聞いてマナタ君は「ムタ君はそんなことしないよ、いつも初めから全力でやるじゃないか。」

 

「なにかあったの?」ミノル君が聞くと、まだ苦しそうに息をしながらムタ君が言った「あの靴だ・・・。昨日俺がものすごく高くジャンプしたの見たろ?まるで魔法の靴のようだった。あれが向こうにある限り勝てないかもしれない・・。」

 

マナタ君が「そんな!何を弱気になってるんだよ、ムタ君らしくないぞ。がんばれ!もしがんばって、それで負けたとしても、それはそれで仕方が無いじゃないか。そのときはまた一生懸命練習して挑戦すれば良いだけだ!」そう励ますと、ムタ君も「うん、そうだな」といった。マナタ君にそう言われ、靴のせいにしようとしていた自分が恥ずかしくなり、心に新たな闘志が沸いてくるのを感じた。「まだもう一本残っている、がんばってくるよ!」

 

 

まだ少し息が整っていなかったがムタ君は次の競争のためにスタートラインへと向かった。一方テツオはまるでこれから初めて走るかような、まるで疲れを感じていないような顔をして既に待っていた。「おい、もういいのか?もう少し待ってやっても良いんだぜ。」相変わらずニヤついた顔で聞いてくる。「大丈夫だ!」ムタ君は言うとさっさと位置についた。

 

マナタ君がまた二人に向かい「用意は良いか?・・それじゃよーい」そのときだった、「あーっ、あった!」スタートする二人を見守ってシーンとしている中で突然女の子の大きな声が響いた。驚いて声のするほうを見ると、みんなと同じくらいの年頃の女の子とその姉くらいの年頃の女の子が二人でこちらに歩いてくるところだった。

 

妹の方の歩き方を見るとかなり怒っているみたいだ。二人は相変わらずシーンとしている応援団やメグロ君たちの横を通り過ぎ、ムタ君たちの前まできて立ち止まった。「ちょっとアンタ、なんでアタシの靴履いてるのよ!」ムタ君はその剣幕に面食らって「えっ、えっ、これ俺のだよ」というと、「アンタじゃないわよ!」そしてテツオを指差し、「そっちのアンタよ!」と言った。

 

みんながテツオの方をみると、バツの悪そうな顔をしたテツオが少し後ずさっていた。女の子は靴を間近で見ると「あ〜、もう、折角綺麗に洗ったばかりなのにこんなに汚して!どうしてくれるのよ!」「ち・ちょっと借りてただけだよ!後で返すからもう少しだけ貸してくれよ。」そう言うとダッと逃げ出した。

 

「あっ、待てーっ!」女の子はそれを追いかけた。冒険クラブのみんなや、クラスの仲間も訳の分からないままドッと追いかけたが、その靴で身軽になったテツオには誰も追いつけなかった。

 

テツオは誰も追いつけないことがわかると、わざと捕まりそうなスレスレまで近づかせてから逃げたりと調子に乗り出した。そのとき追いかけるのを早々に諦めた先ほどの女の子は丁度目の前を通りかかったムタ君に「ちょっと、アンタこっちに来て!」と呼んだ。

 

ムタ君は女の子の登場の仕方からちょっと度肝を抜かれてしまったせいもあり、「えっ、俺?」と言う顔で恐る恐るやってきた。すると「おねえちゃん、その靴ちょっと貸して」言われた姉は“ああ”と言う顔をしてすぐに自分の靴を脱いだ。

 

「アンタこれ履いて。」「えっ、なんで・・?」「いいから早く!」言われてしぶしぶ靴を履こうとその靴を見ると、それは輝くばかりに輝くあの靴と同じものだった。履いてみると昨日と同じように体がどんどん軽くなっていくのを感じた。「これでアンタもあいつと同じになったでしょ、早くアイツを捕まえてきて頂戴!」その高飛車な言いように少しムッとしたものの、少し走り始めると今まで体験したことの無いようなスピード感が楽しくなってしまい、何にムッとしたのかもすぐに忘れてしまった。

 

テツオを見つけるとまるで弾丸のように駆け出した。テツオは相変わらずみんなを翻弄しながらまるでダンスでも踊るように逃げていた。しかし、向こうのほうからものすごいスピードでやってくるムタ君を見つけると今度は真剣に逃げ出した。

 

テツオは広い原っぱをぐるぐると回って逃げている。それを追うムタ君はまるでガゼルを追うライオンのようにぐんぐん差をつめて行く。テツオは右へ左へと巧みに逃げるが、ムタ君も正確にその後を追いかける。それを見ているみんなは先ほどの勝負のときのように大きな声で声援を送り始めた。「右右!」「左だ!」「捕まえろ!」原っぱはいつのまにか大声援に包まれている。

 

すぐ後ろにムタ君を感じたテツオは、今度は左に折れてかわそうとした。しかしそう何度も同じ手は通用しなかった。曲がろうとしたところを、とうとう肘の辺りをガッシリと捕まえられてしまった。

 

テツオは荒い息をしながらもしょんぼりとうなだれながら女の子の前に連れてこられた。腰のところに手をあてた女の子は「ちょっとアンタどういうつもりなの?早く靴を返してよ!」テツオが靴を脱ぐとそれを目の高さまで持ち上げて「ああっ!こんなに底が減っちゃってる!もうどうしてくれるの!!まだ新品なのに!!」まるで目に炎が燃えているような視線でテツオをにらみつける。

 

「ご・ごめん・・」テツオがすまなそうに謝るが、なおも文句を言おうとすると、隣で聞いていた姉が「もうニコったら、その辺で許してあげなさい。あんなところに干していたあなたも悪いんだから。」「だっておねえちゃん、だからってなにも履くこと無いじゃない」姉のほうはやれやれと言う顔をしている。

 

そして姉はテツオに向かって、「これからはこんなことしちゃダメよ」といった。テツオはバツが悪そうに「はい、もうしません、すいません」と素直に謝った。それを聞いてニコは「もう、おねえちゃんは甘いんだから!」とそっぽを向く。

 

すると姉は「ほらこうして謝ってるんだからあなたも許してあげなさい。」言われてニコもしぶしぶ「今回だけだからね!」と言った。テツオはホッとして「本当にごめんなさい」と繰り返した。それを見て「もう、そんなに何度も謝らなくたって良いわよ」となぜかニコもバツが悪そうに言った。

 

姉は今度はムタ君の方を向いて、「あなたも手伝ってくれてありがとうね」というとムタ君は恥ずかしそうに「いや、こんなのなんでもないよ・・です」と言った。「ニコもちゃんとお礼を言わなくちゃ」と姉に促され「まぁアタシほどじゃないけどアンタも走るのまぁまぁ速いみたいね。おかげで助かったわ。ありがと。」と言った。その照れくさそうな言い方がおかしくてみんなは笑った。

 

「この子あまり人を褒めるのが得意じゃないのよ、許してあげてね」姉が言うとムタ君は笑顔でうなづいた。

 

「ところで」ムタ君は今まで履いていた靴を脱いで姉に返しながら言った。「この靴はいったいなんなの?履くとなんていうか体が軽くなって、まるで翼が生えたようなというか、スーパーマンになったような気分になるんだけど」

 

するとニコは「ああ、これ?そりゃぁこんなものを人間が履けばそんな気分にもなるでしょ・・・」言ったところで姉に「こらニコ!」と言われ「あっ、いけない」と失敗顔で姉のほうを見た。

 

でもマナタ君は聞き逃さなかった「人間が履けばだって?もしかして君たち人間じゃないの?」すると姉が「もう仕方ないわねぇ・・。ニコみんなに教えてあげたら」「えっ、それって規則違反じゃないの?」「良いから、良いから」姉に言われニコはしぶしぶ話し始めた。話をよく聞こうとみんなも近くに集まり二人を取り囲むような形になった。

 

「あのね、実は私たち天使なの。」「天使!!」聞いていたみんなは一斉に叫び、ざわざわとし始めた。「ちょっと静かに!」マナタ君はみんなに言うと、ニコに向き直り続きの話を促した。

 

「あたしの名前はニコ、そんでもってこっちはあたしのおねえちゃんでノワ。今度あたしの通っている学校で運動会があってね、この靴を履いて走ることになっているの。この靴はね、少しなんていうか・・危ないんで低学年の子は履けないの。履けるのは200年生からで」

 

「200年生!」マナタ君は口の前に人差し指を立てながらうるさい方に向かってキッ睨み付け、静かにさせてからまたニコのほうに向き直った。静かになるのをまってから「でね、あたしは今年から200年生だから・・・なんていうか・・この靴の練習してたの。」「嬉しくて仕方なかったのよね」姉が茶々をいれると顔を赤くして「もう、あたしが話してるんだから黙っててよ」というと姉は笑顔で「はいはい」と言った。

 

「たくさん練習したんで汚れてしまったものだから綺麗に洗って干しておいたの。でもまた次の日に練習しようと思っていたから、早く乾かしたくていつも干すところじゃなく、もう少し日当たりの良い高いところに干しておいたの。

 

でもそこは日当たりも良いけど、風も強かったのよね。次の日に見てみたら飛ばされちゃって無くなってたの。辺りを探してみたけれど、見つからなくて、どうも人間界へ落ちたんだろうってことになって探しに着てやっと見つけたってわけ。」

 

すると姉が「正体がバレないように人間の格好でね。それなのにこの子ったら・・」「ごめん、おねえちゃん・・」「でもまぁバレちゃったものはもう仕方ないわね」と言い「ふふ」っと笑った。みんなは黙って二人の話を聞いていたが、もう話し終わったと思うと我慢しきれなくなって質問の嵐が巻き起こった。

 

「天使って本当にいるの?それじゃ神様は?」「200年生って君はいったいいくつ?」一通りみんなが質問し、少し静かになったところで姉が言った。「みんなと知り合えて、もっとたくさんお話したいんだけど、あまり時間がないんで3つだけ質問に答えるわね。

 

それじゃあなたとあなたと・・あなた」指名されたのはムタ君とテツオそしてマナタ君だった。ムタ君は言った「さっき200年生って言ってたけど学校は何年通わなくちゃいけないの?」「学校は500年間よ、あたしはいま200年生、おねえちゃんはもう450年生よ」とニコが答える。それを聞いてモモタ君が「うえっ、そんなに長く勉強するの?僕耐えられないかも・・」とつぶやく。

 

今度はテツオが「天使ってよく絵で見るんだけどみんな赤ちゃんじゃなかったの?」するとニコは「そんなわけないでしょ!」すると姉が「あなたが言っているのはあの宗教画とかでよくある、裸の赤ちゃんのことでしょ?」「うん」「あれは人間が想像して描いたもので、」実際は自分たちを指して「こんな感じよ。

 

でも人間と違うのはどんなに歳をとっても見た目は人間の20歳くらいにしかならないの。だから実際にはもうかなりの年齢のおじいちゃんや、おばあちゃんも見た目はすごく若々しいわよ。」

 

最後にマナタ君が聞いた。「天使ってノワさんやニコちゃんみたいに・・」するとニコがさえぎって「ニコちゃん??アンタ年下の癖に生意気よ!」とマナタ君を睨む。少しタジッとして「え〜、ニコさんみたいに天使界から人間界へしょっちゅう来ているの?」するとニコが「もちろん着てるわよ。だって、それが仕事なんだから!」「それが仕事?」

 

姉はニコの方を向いて「もう、また余計なこと言って!」そう言うとみんなの方に向き直り「それじゃもうひとつだけね、天使は学校を卒業すると、人間界に派遣されてくるの。そこで人間たちがどんなことをしているか観るためにね。そして観察した結果をレポートにして神様に報告するのが仕事よ。

 

基本的に人間に干渉することは許されていないから、今みたいにこうしてあなたたちと話をするのは禁止されているの。だから今日のことはみんな内緒にしてね。私たちだけのヒミツよ。」みんなは一斉に「はーい!」と返事をした。

 

もう少し話を聞きたかったが、いつまでも引き止めておくわけにも行かず、みんなに見送られノワとニコは天使界へと帰った。

 

帰る道すがらニコは言った「もう、おねえちゃんたら、あんなこと教えなくても良かったのに。」「たまには人間とおしゃべりするのも良いじゃない」「だって、いくら教えてあげたって、私たちが見えなくなったらすぐに忘れられちゃうんだよ」

 

そうなのだ。実は天使に会っても、別れてしまうと途端にその時の記憶を無くし、自分が今まで何をしていたかさえ忘れてしまうのだ。

 

「そこが淋しいところなのよね」「でもさ、やっと靴も戻ってきたことだし、運動会がんばらなくちゃ!あーっ、でもその前に洗わないと!」二人は仲良く手をつなぎ、天使の国へと帰っていった。

 

マナタ君たちは空に向かって手を振りながらふっと、我に返った。「あれ、僕たち何に向かって手を振ってたんだ?」ミノル君が言うが誰もちゃんと堪えられなかった。「あ、そうだ。僕たちムタ君の勝負の応援に来たんだった」とマナタ君。

 

「学校終わってすぐに出たはずなのに・・・なんかもう夕方だな」とメグロ君がいうと「うん、お腹空いたぁ」とモモタ君。みんなはたった今までいた天使のことなどすっかり忘れてしまっていたのだ。

 

そんな中で全てを覚えている二人がいた。ムタ君とテツオだ。二人は天使の持ち物にしばらくの間、触れていたため記憶を失っていなかったのだ。「みんなどうしたんだろう。さっきまでのことすかっり忘れちゃったみたいだな」とテツオが言うと「そうだな・・・。」「さっきはずるしてごめんな」「ん?なんかあったっけ?俺もみんなと一緒でもう忘れちゃったよ。それより勝負をやり直すか」「おーっ、負けないぞ」

 

二人はスタートラインに並んだ。マナタ君の号令が響く「よーい、スタート!」矢のように飛び出した二人に大きな声援が送られる。夕焼けが迫る原っぱは、元気な歓声に包まれていた


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