幼い少女が公園で一人ぼっちで遊んでいた。本当なら今日は家族で遊園地へ行くはずだった。しかし父親に急な仕事が入り、急遽遊園地行きは延期に。泣いてゴネてみたものの、父親は「ごめん、ごめん」と言いながら仕事に出かけてしまい、母親は拗ねる少女を連れて近くの公園までやって来た。

 

いつもなら休みの日のこの時間なら同じ幼稚園の子供が何人か来ているのだが、今日に限って知っている子は誰もいない。少女は仕方なく家から持ってきた人形で一人遊びを始めた。母親もそのすぐ脇のベンチでいつものように持参した本を読み始めた。

 

少女が人形を着替えさせているとき、強い風が突然吹いてきて、置いてあった人形の黄色いスカーフが勢いよく飛ばされてしまった。少女は「あっ」と声をあげ、すぐにスカーフのあとを追った。母親もそれに気づいたが公園の中ということもあり、特には気にしていなかった。

 

軽いスカーフは思いがけず遠くまで飛ばされ、ついには公園を出て、すぐ前を走る道路へと出てしまった。その道は渋滞する道路の抜け道となっていて、交通量がかなり多く危険な道路だった。少女はスカーフを一刻も早く捕まえることしか考えておらず、一直線に駆けていく。

 

少女が中々戻ってこないことに、はっと気づいた母親が目を上げ、その姿を目で探すと、今まさに少女が道路に飛び出していくところだった。母親は慌てて少女の名前を叫ぶ。やっとスカーフを捕まえた少女がその声で母親を振り返り、捕まえたスカーフを得意げに持ち上げたそのとき、なにかを引き裂くような急ブレーキの甲高い音が響き渡った。

 

反射的に音のする方を向いた少女の目に、猛スピードで自分に向かって走ってくるトラックの巨大な姿が映った。そんな状況にもかかわらず、少女には運転手が目を吊り上げてなにかを叫んでいる様子がはっきりと見えた。次に母親のほうに目を移すと泣きそうな顔をして口に手を当て、その脇を本がゆっくりと落ちていくところだった。

 

ふと、いつも母親や幼稚園の先生が “道路に出るときは周りをよく見て気をつけなさい”と繰り返し言っていたことをふと思い出し、“ちゃんと言いつけを守っていれば良かったなぁ”と思った。

 

駅から少し離れたコンビニで一人の男が周りの客がいなくなるのを待っていた。土曜日のせいか客が入れ替わり立ち代り入店してくる。素早くコトを済ませなくてはと、緊張とイライラで汗をかきながら、雑誌のコーナーで立ち読みするフリをして周りの様子を伺っていた。

 

男は先月までかなり格式の高い料亭に努めていた。自分にはこれしかないんだと心に決め、不器用ながらも真面目に頑張っていた。勤めて最初に言われたとおり、1日の終わりには必ず毎日包丁を研ぎ、鍋や釜を磨き上げるのが男の日課だった。

 

同じ職場にはそれぞれ名のある料亭の息子たちが何人もいて、この店へ修行に来ていた。しかし“今時修行もあるかよ”とスキさへあればサボろうとし、男の真面目さは鼻についた。そのせいでなにかと因縁をつけては殴ったり、また嫌がらせをくりかえしては憂さを晴らすような連中だった。

 

そんなことにもめげず毎日真面目に仕事をこなしていたある日、店の売り上げがそっくり盗まれるという事件が起こった。実はあの連中の一人が遊ぶ金欲しさに盗んだのだが、どういうわけか、その金の一部が男の部屋から出てきてしまい、とうとう男は犯人に仕立て上げられてしまった。店の体面もあり、男を可愛がっていた親方もかばいきれず、ついには店にいられなくなってしまった。

 

もう今日で最後と言う日、男はいつものように遅くまで厨房に残っていた。男がやっと帰ったあとには、いつも以上にピカピカに磨き上げられた鍋や釜がキチンと並べて置かれていた。

 

その後、別の就職先を探してはいたもののなかなか思い通りの職場にめぐり合うことが出来ず、昨日も今度こそはと思っていた就職先から不採用の通知が届いたばかりだった。

 

現在の所持金はわずか46円。空腹だったがもう何も買うことが出来ず、これ以上はどうしようもなくなってしまった。男はこれからコンビニ強盗をするつもりだった。

 

生活のために売れそうなものはほとんど売ってしまったが、就職祝いに父親から貰った包丁だけは唯一手放せなかった。最後の客が店を出て行き、他にはもう客が居ないのを確かめると、その手入れの行き届いた包丁が紙袋に入っている重みを感じながら目の前にあったパンを一つ掴み取りレジへと向かった。

 

レジの前まで来てパンを置く。女性店員が元気な声で「いらっしゃいませーっ」と声を掛け、パンのバーコードに読み取り機を当てる。その隙にさっとカウンターを飛び越えた。

 

店員はその動作に「きゃっ!」と声を上げたが男は素早く廻りこみ、後ろから首の辺りを抱きかかえるようにして捕まえると、袋から出した包丁を良く見えるように店員の目の前に出し、「金を出せ!」と言った。

 

そのあとはレジの中のお金をありったけ、持ってきた紙袋に詰め込んで逃げ出すだけだ。ところが、計画通りいったのはここまでだった。丁度そのとき店の中に大きなスポーツバッグを担いだ、いかにも体格の良い3人連れの客が入ってきてしまったのだ。

 

女性店員はそれを見て「きゃーっ、助けてーっ!!」と大声を上げた。体格のいいやつに限ってこんなときは良いところを見せようとする。3人の客はすぐ事態に気づき「おい、何してるんだ」「やめろ」「その人を放せっ!」とレジに詰め寄ってきた。

 

男はすっかりパニックに陥ってしまい、「ち、近寄るなっ、こいつを刺すぞ!」と包丁を高々と振り上げた。女性店員も同じくパニックになっていて、泣き叫ぶのをやめられない。騒然としている店の外で誰かが「おうおう、どうしたってんでぇ?」という声も聞こえ、人が集まってきている様子だ。また覗き込んだあと、あわてて帯電話を取り出す(警官を呼んでいるのか?)者までいる。

 

「黙れ、黙れ!」男は一層パニックに陥った。“ああ、なんでこのいつはこんなにうるさいんだ?そうだ!包丁で少しだけ刺して、黙らせよう“と考えた。しかし、そんな状況で力をセーブできるはずもなく、気がつけば包丁は柔らかそうな店員の首に深々と首に突き刺さっていた。

 

包丁を生やしたような首から目を上げると、驚きのあまりはちきれそうなほど目を剥き、腰が引けた状態で動きを止めた3人の男の顔が見えた。男はもう一度包丁に目をやると“なんで、こんなことになっちゃったんだろう”と思った。

 

少年は古い団地の屋上に立ち、ぼーっと下を眺めていた。少年は太っているものの多くがそうであるように運動が苦手で、体育の授業のときは、早く終わればいいのにと思いながら、時間が過ぎるのだけを待っているのが常だった。

 

元来明るい性格のため、友達に体型のことや運動音痴のことをからかわれるても自虐的な笑いを振りまき周囲を笑わせるものの、その一方で実は自分の体型に深いコンプレックスを持つといった二面性を持ち合わせていた。

 

そんなだから学校の友達や先生、そして親すらも少年の心の傷にはまるで気づかずにいた。その傷のせいなのか、最近では風呂に入ったときに鏡に映る自分の姿を見るのがイヤで、その間じゅう目をつぶっていたり、体重計を裏返しておいてみたりと自分でも訳のわからないことをしてしまうことがある。

 

自分でもちょっとヤバイかなと思うときもあるが、だからといって痩せるためや運動が巧くなるための努力をしようとは少しもしなかった。なぜなら少年の得意技は嫌なことは全て他人や物のせいにすることだったからだ。他人のせいにしてみると“自分は悪くない、仕方ないことなんだ”と思えて心が少しだけ軽くなるのだ。

 

明日の日曜日は運動会。一年中で一番嫌いな日だ。運動会で息を切らせてビリを走る自分の姿を想像すると気分は一層暗くなる。“僕がたくさん食べるのを見ていながら、それを誰も止めてくれないからこんなに太っちゃったじゃないか。これじゃどうせまた去年みたいに転んで恥を掻くだけだよ。なんだかもう生きているのも辛い”そう思いながらブラブラ歩いていたらいつの間にかここにきていたのだ。

 

「はぁはぁ・・・お母さんが観てみろって言うから観たテレビで、階段を上ると痩せるなんていうから上ってみたらこんなところに来ちゃった。」涼しい風に当たりながら、屋上の縁から下を見ると、歩いている人がまるで蟻のように小さく見える。

 

その時ふと「ここから飛び降りてしまえば明日の運動会にも出なくて済むな」と言う考えが浮かんだ。ミニカーのような自動車が走っているのを眺めているうちに、なんだかそれがすごく名案に思えてきた。

 

そして、まるで夢遊病にでも掛かったようなフラフラとした足取りで屋上の縁に両足で立つ。するとまるで吸い込まれるような感じがして体が前に傾向いていく。

 

足の裏から縁の感触がなくなったあと、すぐに怖くて目をつむってしまった。風の音がとてもうるさい。下までは“あっという間”だと思っていたのにそうでもないようだ。その間に“こんなことになったのは誰のせいだ?”と考えようとした。でもその一瞬後にはもう識を無くしていた。

 

マナタ君たちは明日の運動会の準備のため、土曜で休みだと言うのに朝早くから学校に来ていた。色々な飾り付けをしたり、校庭に置いてある遊具を使えないように縄を張ったりとやることは山のようにあった。

 

先生に呼ばれ赤組と白組の点数をカウントする点数表を取り付けるように言われた。この点数表は何年も前の卒業生の卒業制作の作品で、木の枠に紙粘土を貼り付け、そこに綺麗なビー玉や貝殻などが埋め込まれている。少し薄汚れてきてはいるが、心の篭った作品だ。運動会の開会式では校長先生が集まった父兄や生徒に必ず紹介するほどの名物になっている。

 

だが、見るのと持つのでは大違いで、製作当時に使われた紙粘土は今とは違って重量があり、この点数表の重量は相当なものだった。だから上級生が中心となり取り付けるのが恒例で、今回はマナタ君たちにその役目が回ってきたのだ。

 

みんなから良く見えるように、3階の教室の窓の外側に取り付けなくてはいけない。そのため力持ちのメグロ君が腕を伸ばし、窓の外側に支えている間に、他のみんなが点数表の裏についた留め金に紐を通し、窓枠に縛り付けていく。留め金は全部で12個もついていて、その多さがどれだけこの点数表が重いかを物語っている。

 

4番目の留め金まで縛り終えて5番目を留めるため、マナタ君はすぐ後ろにいたモモタ君に「ねぇ、そこにおいてある紐を取って」と言った。モモタ君は「うん」と言って、紐を取るためにかがんだ。

 

その途端朝からお腹が張っていたモモタ君は勢い良くオナラをしてしまった。“プゥ〜!”それを聞いてたみんなは大笑いになってしまった。そうなるとメグロ君も点数表を持つ手から力が抜け、その重みで手から放れてしまった。

 

その瞬間結んであった4本の紐がブチブチっと音をたてて切れ、点数表はあっというまに落下。ガシャーンという大きな音で、みんなの笑いは一瞬で引っ込み、青くなって窓から下を覗き込んだ。そこには無残にも粉々になった点数表。そしてそこへ向かって駆け寄ってくる先生や生徒たちの姿が見えた。

 

5人は先生たちにこんこんと説教をされたあと、罰として倉庫の整理をさせられることとなった。校庭の倉庫で古くなりもう使わなくなったマットや跳び箱を体育館の地下にある倉庫まで運ぶのだ。

 

重いマットと跳び箱を運びながらムタ君が「あ〜あ、朝からツイてないなぁ、モモタ君があんなところでオナラするからだぞ!」「だって、仕様がないだろ、出ちゃったんだから」ミノル君とマナタ君はそのときのことを思い出してまたクスクスと笑い出した。他の3人それにも釣られて大笑いした。

 

ひとしきり笑ったあと、笑いすぎて出てしまった涙を拭き拭き、倉庫までマットと跳び箱を運んでいく。倉庫の扉を開けると、そこの空気はひんやりとしていて、少しカビくさかった。

 

外には先生や生徒がたくさんいるのに、その声はここまで全然聞こえてこない。まるでここだけ別の世界のようだ。壁のスイッチを入れると何度かチカチカしてから蛍光灯が点灯した。しかし、蛍光灯にはカバーも無く蛍光管がむき出しで余計寒々とした雰囲気になった。

 

倉庫の中には、今までに乱雑に放り込まれたものが足の踏み場もなく置かれている。「ありゃ、このままじゃ跳び箱が入らないぞ」メグロ君が言うと、マナタ君が「仕方ない、みんなで入るように整理しよう」と言った。

 

大きいものは一度外に出して、小さいものは種類ごとに並べていく。そうしているうちに「なんだろうこれ?」というモモタ君の声がした。みんながそこへ行ってみると黒い箱が部屋の隅にひっそりと置いてあった。

 

よく見るとその箱は取っ手がありスーツケースの様だ。大きさは普通のカバンよりも少し小さめで、厚みは15cmくらい。角がカクっとして硬そうで、材質は皮のようだ。マナタ君が持ってみると見た目より少し重めだがそれほどでもなかった。

 

「何が入っているのかな?」とムタ君が言うと「結構重いから空っぽじゃないよね」とモモタ君。「誰かの忘れ物かな」とミノル君がいうと「宝物が入っていたりして」とメグロ君。みんなが期待する中マナタ君が「開けてみようか」と箱に手を伸ばした。

 

取っ手のある側に二つのボタンがついていてそれを横にスライドさせると留め金がパチンと音をたてて開く。そっと上の部分を持ち上げてみるとパカッと開いた。中身は財宝なんかでは無く、赤と白そして緑の四角いボタンとそれより少し大きくて丸いダイヤルのようなものがついたなにかの装置のようなものだった。

 

ダイヤルの周りには等間隔に−1、0、+1と3つの目盛りが切ってある。ダイヤルはいま“1”のところ指していた。「なんだろうこれ?」マナタ君はダイヤルを回してみた。カチン、カチンという音がしてダイヤルは軽く回った。

 

ミノル君が赤いボタンを押してみると“ピーッ”と言う音がした。ムタ君が次に白いボタンを押してみると“ピッ”と赤いほうより短い音がした。モモタ君が最後の緑のボタンを押してみると、思いもよらぬ音が。“プゥ〜!”それはまるでこんなことをしている原因になったモモタ君のオナラのような音だった。

 

みんなは顔を見合わせて大笑いしながら緑のボタンを何度も押してみた。その度に“プゥ〜!” “プゥ〜!”とオナラのような音がする。しかし音がするだけで特ににおいがするわけでもなく何も起こらなかった。他のボタンも含めて何度も押しながら、改めてよく見てみると、ふたの裏に何かを書いた紙が張ってあった。

 

薄暗いので顔を近づけてみると、“赤=開始、白=終了、緑=前悔”と書かれている。そのすぐ下には“−1=逆行、0=静止、+1順行”と書かれている。いったい何のことかとみんなで頭をひねっていると、マナタ君が「これゼンカイって読むのかな?」といった。

 

確かにそれぞれの意味はなんとなく判るが緑のところに書かれている“前悔”というのは今まで見たことも聞いたことも無い。「前悔ってなんだ?」とメグロ君。みんなも考えたがさっぱりわからなかった。

 

その奇妙な機械にも飽きたころマナタ君が「さあ、早く終わらせよう」と言って、作業を再開することになった。みんなはまたテキパキと荷物を整理し始めた。一通り荷物を整理し終えて、やっと大きな荷物を運び入れられるようになったので、跳び箱から運び入れることにし、みんなで持ち上げた。ところが倉庫の天井は低く、そのままでは入らないため中腰になって運び入れることにした。

 

かなり重量があるので中腰で歩くのはかなりの重労働だ。それでもみんなで力をあわせ、あらかじめ決めておいた位置に向かって運んでいる途中、先頭を後ろ向きに歩いていたミノル君がなにかにつまずいて転んでしまった。

 

「わぁ〜」。一人抜けた分を支えようと、その隣にいたメグロ君がグッと腰に力を入れる。しかし入れすぎた!跳び箱は予想以上に持ち上がり、天井の蛍光灯にぶつかり、割れた破片が粉々になってみんなの頭へ降り注いだ。

 

みんなは驚いて跳箱から手を離してしまい、床に落ちた跳び箱が大きな音をたてた。「みんな大丈夫か、怪我してないか?」マナタ君が聞くとみんなは「大丈夫、大丈夫」と口々に答え、頭や身体についた破片を掃っている。暗くなった天井を見て「あ〜あ、またこれで怒られちゃうな〜」とモモタ君が言った。

 

「バラバラにして少しずつ運べばよかったな〜」とマナタ君も言う。がっくりしながら「とりあえず破片で怪我すると危ないから片付けよう」と掃除道具を探しに倉庫の外へ出た。

 

出て行くときに薄暗くなった倉庫をミノル君が振り返ると、さっきみんなで遊んだスーツケースのふたが開きっぱなしになっているのに気がついた。“もしも先生が見に来たら遊んでいたのがバレちゃう”と片付けておこうと戻ってきた。

 

ふたをする前にもう一度、なんとなくダイヤルをカチカチと回した後、下から緑、白、赤とボタンを押してみた。“プゥ〜!”“ピッ”“ピーッ”という音がした。その音に一人“フフフ”と笑い、ちゃんとふたを閉めてからみんなのあとを追った。

 

急いで倉庫を出ると驚いたことにみんなはまだそこにいた。“先に出たからもうとっくに上の方まで行っていると思っていたのに”不思議に思いながら「なんだまだみんなここにいたのか」ミノル君がそう声をかけても誰も振り向かない。

 

何か変だ。立ち止まっているのだが、歩いているようにも見える。正確には歩いている途中の格好で止まっているのだ。しかもその状態のままなぜか動き出さない。前に回ってみると少し肩を落としたメグロ君、その肩に手を掛けているマナタ君、頭を掻いているモモタ君、両手を頭の後ろで組んだムタ君。みんな止まったまま動かない。

 

「なんだ、なんだ?どうしたんだ?」ミノル君は仲間たちに声を掛け揺すってみた。しかしビクともしない。「いったい何が起こったんだろう?」“まるでビデオを静止したようだ。・・・・ん・・・静止?なんだかどこかでその言葉を見たような・・・あ!そうだあの箱だ!”

 

ミノル君は急いであの箱のところまで戻った。そして急いでふたを開けてみる。ふたの裏に張られた紙には“0=静止”と確かに書いてある。ダイヤルをみると“0”の位置に。ミノル君は恐る恐るダイヤルを“1”の位置にしてみた。そして急いでみんなのところへ戻ってみる。

 

しかしさきほどと同じようにみんなは止まったままだ。“なんで動き出さないんだ・・・良く考えろ!どのボタンを押したっけ?ダイヤルをいじったあと・・・そうだあの面白い音が聞きたくて四角いボタンを押したんだ”また箱のところに戻ると、さっきしたのと同じように緑、白、赤の順番にボタンを押してみる。“プゥ〜!”“ピッ”“ピーッ”

 

みんなを見てみるが変化なし。“最後に押したのが赤いボタンで、これが開始ということは・・・そうか終了の白だ!”“ピッ”音がして、同時に倉庫の外から急にみんなの話し声や歩く足音が聞こえてきた。

 

みんなのところへ駆け戻ると、なんと何事も無かったように歩いていた。「あ〜、直った〜」思わず言うと、その声を聞いたみんなは何事かと不審そうな顔をしてミノル君のほうを振り返った。

 

ミノル君は今起こったことをみんなに話して聞かせた。「すると俺たちはそのあいだずっと止まってたのか?」ムタ君君が聞くと「本当にそんなことってあるのかなぁ?」とモモタ君。「もし本当だったらこれはすごいぞ!」とメグロ君。「ちょっと実験してみようか」マナタ君がワクワクした顔で言うとみんなも「おーっ!」と賛成した。

 

「たぶんこの機械のそばに居る人は止まらないと思うんだ。だからこれを使ってみよう。そういって倉庫においてあったバスケットボールを手に取った。「合図をしたらこのボールを軽く投げてみて、よし、行くよ」ミノル君が言うとダイヤルを0に合わせたあと、赤のボタン指をかけ、「投げて!」その合図でマナタ君がボールを倉庫の外に向かって軽く放り投げる。

 

ボールが十分離れたところでミノル君が赤いボタンを押す“ピーッ”すると何度かバウンドしていたボールがピタリと止まった。しかも空中で!みんなは一体どうなっているのか近くで見ようと二人に駆け寄った。

 

ボールは完全に空中で止まっている。試しにメグロ君がボールにぶら下がってみたがビクともしない。「おーっ、なんだこれーっ!」みんなは声をあげて驚いた。「みんな戻ってきて。」ミノル君が声をかけ、そして白いボタンを押す“ピーッ”ボールは何事も無かったようにまた向こうへと弾んでいった。

 

その後も何度かテストを重ね、この装置のことが大分わかってきた。

 

・ダイヤル0は止まる。

・ダイヤル1は進む。

・赤はダイヤルにあわせた内容が始まり、

・白はそれを終わらせる。

・赤いボタンを押したあとに白のボタンを押すとダイヤルはどこに合わせてあっても、必ず“+1”のところに自動で戻る。

・それと忘れてはいけないのが、影響を受けない装置からの距離は2m( 一列に並んで先頭のミノル君がボタンを押してみると止まってしまったのは4番目以降にいたメグロ君とモモタ君だけだった。その距離約2m)

 

「この装置のことが段々判ってきたな〜」とミノル君。「あとわからないのはダイヤルの“−1”と緑のボタンだけか。でも“−1”ボタンはなんとな〜く判るね。テストしてみよう。」

 

みんなが機械のそばに来ると、ダイヤルを“−1”に合わせて赤いボタンを押す。“ピーッ”しかし何もおこらなった。「あれ〜、おかしいな時間が戻ると思ったのに・・」するとマナタ君が「もしかしたら戻っているけど、それが判らないだけなんじゃない?」と言った。言われてみれば、ここにみんなで集まっていてもなにも変化がわからないことに気づいた。

 

それでジャンケンに負けたメグロ君が一人で水の入ったビンを落としてみることにした。倉庫の隅にあったビンに水を入れ、「良いか〜落とすぞ〜」と言った。そして目の前まで持ち上げると、つかんでいたビンを放した。ビンはコンクリートの床に向かって落下し、見事に割れた。

 

そのとき水をたくさん入れすぎたせいでメグロ君のズボンがびしょ濡れになってしまい「うひゃあ、水を入れすぎた!少しにしておけば良かったな〜」メグロ君は塗れたズボンの裾を振りながら言った。

 

「メグロ君、そのままそこにいて。これから時間を戻してみるよ」そういうとミノル君はダイヤルの目盛りを“−1”にし、赤いボタンを押した。すると予想通り4人の目の前で、まるでビデオの逆再生のように割れたビンや飛び散った水が一箇所に集まり、そのままメグロ君の手に戻っていく。

 

頭では判っていたものの、実際に見るとみんなして目を瞠ってしまった。そしてモモタ君はつい機械の上に手をついてしまい「プゥ〜!」と言う音が出た。その音でみんな我に返り、慌ててミノル君が白いボタンを押す。

 

するとメグロ君が「良いか〜落とすぞ〜」と言った。そのあとすぐに「あっ、でもこれ水が少し多いかもな。少し減らそう」そういうと、隅の方にビンの水を半分ほど空けた。そしてビンを落とすために目の高さまでビンを道上げた。それを見て慌てて「メグロ君もう良いよ」と止めていた。そんなみんなを見ながらマナタ君は一人考え込んでいた。

 

もう実験が終わったことを知らされたメグロ君は「え、ホントに?それじゃやっぱ時間がもどったんだ?」と言った。予想が当たって興奮しているミノル君とみんなが話している中、マナタ君はなにやら考え込んでいる。

 

その様子に気づいたミノル君が「どうかした?」と聞くと。マナタ君は「この緑のボタンの意味がなんとなくわかったんだ」と言った。「もしかするとさ、時間を戻しながらこの緑のボタンを押すと、あとになって後悔するようなことに、それが起こる前に気がつけるんじゃないかな。」みんなは真剣な顔をして聞いている。

 

「さっき時間が戻っているときにオナラのような音が聞こえたよね?あれは緑のボタンを押したときの音だ。そしてメグロ君は初めはビンの水をいっぱいにして落としてズボンをビショビショにしたのに、2回目は落とす前に水を減らしていたよね。」みんなが頷く。

 

「だからこのふたの裏の文字“前悔”これは“前もって後悔する”って意味なんじゃないかな。」するとメグロ君が「もしそうだとしたら、俺たちが割った蛍光灯も割る前に後悔することが出来るってこと?」「それどころか点数表だって壊さないで済むよ。」喜んでいるみんなにミノル君が言う。

 

「でもそうなると問題があるね。さっき時間を戻したとき蛍光灯がいつまでたっても直らなかったでしょ?つまり壊した僕たちがそこに居ないとちゃんと直らないんじゃない?だって、壊す人がいないんだから」みんなは考え込んでしまった。

 

「ということは、つまり俺たち以外の誰かが、壊す少し前にこの緑のボタンを押してくれないとダメってことだよな?」ムタ君が言うと「緑だけじゃないよ、白で止めて、赤でスタートもさせてくないとダメなんだ。」とマナタ君。

 

みんなが何かいい方法がないかと考えているとモモタ君が「タイミングよくネズミでも落ちてくれれば良いんだけどな〜」と言った。それを聞いてミノル君が「それだ!」と叫んだ。「なにかをボタンの上にうまく落ちるようにすれば良いんだ!」「お〜、なるほど!」メグロ君は感心して声を上げた。

 

するとムタ君が「でも何をどうやって落とすんだ?」それを聞いたマナタ君は「これを使えば上手く行くかも。」とポケットをごそごそさせて何かを見つけるとみんなの前に出した。「うん、これならうまくいきそうだね」ミノル君が言うとみんなも賛成した。マナタ君がポケットから取り出したのは3個のスーパーボールとチューインガムだった。

 

まずは装置の脇に高飛び用のポールを持ってきた。そして棒を載せる台の平らな部分が下になるように上下さかさまに取り付けなおす。そこにしばらく噛んで粘り気を出したチューインガムをくっつけた。

 

「丁度僕たちが点数表を壊しちゃった辺りでこれが落ちるようにしないといけないから難しいね」モモタ君が言うとミノル君が「それよりボールが白のボタンに当たらないほうが大変だよ。」ムタ君が想像して「あっ、そしたらどんどん時間が戻って僕たち、いや、地球が消えちゃうまで戻っちゃうかも!」みんなも想像してゾ〜っとした。「だから失敗しないようにしっかりやろう!」マナタ君が励ましてみんなはより一層慎重に狙いを定めてセットした。

 

「まず最初に赤のボタンで時間を戻す。そのあとは緑のボタン。そして最後に白のボタンで時間がちゃんと進むようにしなくちゃね」言いながらマナタ君はセットする。そしてテスト。赤はすぐに落とすのでガムは少しだけ、緑と白は3分の1くらい被るようにガムで覆った。そしてそのまま少し放置してみる。

 

予想通り赤はすぐに落ちた。みんな「おお」と声を上げる。しかし他の二つもそのあと何分もしないうちに落ちてしまった。「ガムが足りないんだね」ミノル君が言う。まだ残っているがガムが一つだけあったのでそれも良く噛んでからつけてみる。半分にちょっと足りないくらいまで覆ってみる。しかしやはり何分もしないで落ちてしまう。

 

仕方がないので赤の分を白と緑に足すことにした。すると半分より少し多めに覆うくらいになりこれならしばらくは落ちてこなそうだった。でもこのままじゃ赤のボタンを押すことが出来ない。どうしようか考えていると。「じゃあ、俺の出番かな?」ムタ君は言うとお尻のポケットからパチンコを取り出した。

 

これで準備は整った。「さあ、やってみよう」マナタ君の掛け声で近くにいて時間が逆行するときに取り残されないように装置から2m以上離れる。ムタ君はパチンコをぎゅーっと伸ばし、慎重に狙いを定め、そして打った!スーパーボールは見事赤いボタンに命中し、“ピーッ”という音。そして時間が逆行し始めた。

 

整理していた倉庫がどんどんもとどおりの乱雑な様子に戻っていく。みんなが後ろ向きに歩いて倉庫を出て職員室に入ると先生に怒られた。

 

そのあと教室に戻り窓から下を覗き込むとバラバラになった点数表が一つにまとまり3階の窓まで持ち上がっていく。そしてみんなで点数表を持って階段を後ろ向きに下りていく。そのとき緑のボタンの上にボールが落ちる“プゥ〜!”本当ならここら辺で緑と白のボタンに向かってスーパーボールが落ちるはずだったが、ボールはまだしっかりと張り付いていて全然落ちる様子が無い。

 

みんなが後ろ向きで学校を出て行く。そしてそれぞれの家へ戻り、朝ごはんを食べている丁度そのとき、やっと最後のボールが落ちた。“ピッ”ダイヤルがゆっくりと“+1”のところまで戻る。すると一瞬止まっていた全てが、再び正常に動き出した。

 

少女は遊園地に行くはずだったのに行けなくなってしまい、公園で遊んでいた。そのとき突風が吹いて着替えさせていた人形の黄色いスカーフが飛ばされてしまう。スカーフは普段から自動車の通りが激しい道路の真ん中へ。

 

少女はまっしぐらにスカーフへと駆けていく。帰ってくるのに時間がかかっているのにはっと気づいた母親が目を上げ、目で探すと、なんと今まさに少女が道路に飛び出していくところだった。

 

母親は慌てて少女の名前を叫ぶ。すると声が届くか届かないかのうちに少女は道路に出る直前で立ち止まり、左右を確認した。そのとき右手からトラックがやってきたが、いつもは猛スピードでこの道を通り抜ける運転手が今日はなぜかゆっくりと徐行してやってきた。

 

そして路上に何か黄色いものがあり、その脇で少女が踏まれないかと心配そうな顔をしているのを見つけると、後ろが渋滞するのにもかかわらず、わざわざ車を止めて降り、スカーフを拾い上げると少女に手渡した。そして、「よく飛び出さなかったね、偉いぞ!」と頭を一つ撫ぜると後ろでクラクションを鳴らし、待っている自動車にむかって軽く頭を下げて急いでトラックに乗り込むと何事も無かったように走り去った。

 

慌てて走ってきていた母親に向かい少女は笑顔で「ちゃんとママの言うこと守れたよ」と言って黄色いスカーフを持ち上げて見せた。それを見た母親も笑顔になり少女を抱き上げた。

 

駅から少し離れたコンビニでは一人の男が周りの客がいなくなるのを待っていた。男は先月まで努めていた料亭をクビになり、昨日も今度こそはと思っていた就職先から不採用の通知が届いたばかりだった。

 

どうしようもなくなってしまったその男は、意を決してコンビに強盗をするつもりだった。だが最後まで手放せなかった包丁の重みを、持っていた紙袋の中に感じたとき、ふと「俺はいったい何をしようとしてるんだ?」。急に自分のやろうとしていることが恐ろしくなってしまった。

 

急いでコンビニを出ると、足早にそこから遠ざかろうとした。するとすぐ先に割烹料理と看板をあげている店の前で、大きな声をあげて騒いでいる少しガラの良くない初老の男がいた。「なんだってまたこんなにきつく縛ってやがるんでぇ、ほどけやしねえじゃねぇか!」どうもなにかの荷物の梱包を解こうとしているところのようだがうまくいかない様子だ。

 

男が横目で見ながら通り過ぎようとすると、その初老の男が、「おい、なにジロジロ見てやがるんだ、あ?」と言ってきた。絡まれては敵わないと思い目を伏せ「い、いえ別に」といって足早に去ろうとした。

 

すると、その初老の男は「おい、兄ちゃん、兄ちゃん。ちょっとまて。」と呼び止めた。男は迷惑そうに「なんですか?」と振り返った。「悪りぃんだけどよ、ライター持ってねぇか?この紐がなかなか切れなくてよ。」紐が切れないのでライターで焼き切る気のようだ。そう言われて男は袋に手を入れ「ライターは無いけどこれでよかったらどうぞ」と包丁を差し出した。

 

いきなり包丁を出されて少し驚いたようだが、それを手に取り一目みると「お、こりゃぁ・・あんた板前かい?」と聞いてきた。「え、ええまぁ。正確には()した(・・)です。先月クビになったんで・・・。」「へぇ、クビねぇ。で、いまは何してるんでぇ?」「え〜と、いまは英気を養っているというか、その・・・。ぶっちゃけ次の職を探している最中ですよ・・」

 

「へっ、バカなやつだぜ、まったく」「あ、あんたねぇ、見ず知らずの人が馬鹿にしないでくださいよ!」男が怒っていうと「アホ!バカなのは兄ちゃんじゃなくて前の雇い主ののほうだよ。」「へっ?」「これだけ地味に商売道具を手入れしているやつなんて、いまどきなかなかお目にかかれねえぜ。こいつを見て持ち主がどんなヤツかも判らねぇとはよ。よし、決めた!兄ちゃん、今日からうちで働きな!」「ええ〜っ!」「どうせ行くとこ無ぇんだろ?」そして、なかば強引に肩を組まれ、店の中へと連れ込まれていった。

 

少年は古い団地の屋上に立ち、ぼーっと下を眺めていた。少年は太っているものの多くがそうであるように運動が苦手だった。友達に体型のことや運動音痴のことをからかわれても自虐的な笑いを振りまき周囲を笑わせ、そのくせ内心傷つく。最近は行動が少しおかしくなってきていると自分でも感じるが、他人のせいにしてしまえば、それで気にならかった。

 

明日の日曜日は一年中で一番嫌いな運動会だった。運動会でまた惨めな思いをするかと思うと今から暗い気分になった。“なんだかもう生きているのも辛い”そう思いながらブラブラ歩いていたらいつの間にかここにきていたのだ。

 

「ああ、ここから飛び降りてしまえば明日の運動会にも出なくて済むな」とつぶやいて、屋上の縁から歩いている人やミニカーのような自動車が走っているのを眺めていると、なんだかそれがすごく名案に思えてきた。そして屋上の縁に立ち、身体を傾ける。身体はまっすぐに地面に向かって・・・とそこまで想像したら、なんだか無性に怖くなってしまった。

 

「わ〜、危ない、本当に落ちるところだった。・・・・そういえば、死ぬ気でやればなんでも出来るって言うしな。いま飛び降りたと思っていっちょダイエットにでも挑戦してみるか!」そう決心してみると、そんな決心をした自分がなんだかカッコ良く思えて、来たときとは打って変わって軽い足取りで、ドスドスと階段を降りていった。

 

そのころマナタ君たちは明日の運動会の準備で大忙しだった。飾り付けだとか他にもやることは山のようにあった。赤組と白組の点数をカウントする点数表も取り付けなくてはならない。この点数表は何年も前の卒業生の卒業制作の作品で、開会式では校長先生が集まった父兄や生徒に必ず紹介するほどの名物になっている。

 

当時の紙粘土で作られたこの点数表はかなり重いもので、取り付けは上級生が中心となり取り付けられる。今回はマナタ君たちが取り付けることになった。3階の教室の窓の外側に12個もついている留め金のうち4番目まで紐を通し終え、5番目を留めようとマナタ君が、後ろにいたモモタ君に「ねぇ、そこにおいてある紐を取って」と言った。

 

するといままでそこにいたモモタ君がなぜかそこにいない。「あれ?モモタ君は?」代わりにミノル君が紐を取り、マナタ君に手渡した。全ての留め金に紐を通し終え、点数表がしっかりと固定されたとき、モモタ君がふらっと教室に現れた。

 

「モモタ君さぼるなよ〜」ムタ君が言う。するとモモタ君は頭を掻きながら「いや、さっきみんなが一生懸命点数表を縛っているときにオナラが出そうになっちゃってさ〜。恥ずかしいから一つ下の2階のトイレまで行って思い切りしてきたんだよ」と言った。

 

それを聞くとみんなは大笑いした。「なんだよいつもみんなの前でしているくせに!」とメグロ君がからかうと「そういえばそうだよね。でも何か今日はそんな気分だったんだよ」みんなはまた大笑いした。

 

そのしばらくあとのこと、用務員さんが地下の倉庫へ古いマットを置きにきた。すると倉庫の奥に立てかけておいたはずの黒いスーツケースが無造作置かれ、しかもふたが開き、そのすぐ脇には高飛び用棒を乗せるポールが立っているのを見つけた。「やっ、またどこかのいたずら小僧がここに入ったな」といって近寄っていった。

 

いままでにも何回かこのスーツケースが開けられたまま置いてあったのを発見しているが、これが何のための機械なのかはまるでわからなかった。ただ、いろいろなボタンやダイヤルがついているのを見て“なにやら大事な機械みたいだ”とだけ思っていた。

 

たくさんのボタンがついているのを見るたびに“ちょっとどれか押してみるか”と思う。しかしすぐに“いや、いや、壊してしまっては大変”と思い返し、そっとふたを閉じると、また元のように倉庫の隅にそっと置きなおしておいた。

 

マナタ君はモモタ君のことでみんなと笑いながらポケットに手を入れた。するといつもそこにあるはずのスーパーボールと、一緒に入っていたはずのチュ−インガムが一緒になくなっていた。

 

“あれ、どこかに落としちゃったかな?”と思った。その様子を見たミノル君が「どうかした?」と聞いた。マナタ君が「ううん、なんでもないよ」と答えると、すかさずモモタ君が「オナラがしたいなら2階が良いよ、思いっきり出来るからね」と言った。教室はみんなの楽しげな笑い声で満たされた。