不思議な箱




めずらしくメグロ君の元気がなかった。みんなが集まっていて、普段ならモモタ君相手に冗談を飛ばしても良い場面なのに、今日は話の合間に「ハハ・・」と愛想笑いをするばかりだ。そんな様子に気付いたマナタ君が「どうした、今日は元気無いね」と聞くと、「え、そう?」と答えるだけで、やはりいつもと違う。ムタ君が「どうしたんだよ、何か悩みでもあるのか?だったら聞いてやるぞ」というと「いや、悩みなんてないよ・・」「でも元気ないなぁ」とモモタ君も心配顔だ。

 

するとメグロ君は「実はさ・・・今朝起きてみたらキ・キバ太郎が死んでたんだ・・・ううぅ」言うなり泣き出してしまった。キバ太郎というのはメグロ君が幼虫の頃から飼い始め、成虫になってからは二度も越冬したクワガタのことだ。

 

他のみんなで虫を捕まえに行っても。メグロ君だけは捕まえようとせず、訳を聞くと「だって、俺にはキバ太郎が居るから」と言うほど大切に育てていた。「最近歳のせいか動きが悪いのには気づいていたんだ。でもこれから夏になるだろ?そしたらきっとまた元気になるに違いないって思っていたのに・・・。」

 

我慢しきれなくなり、大きな体を震わせると大粒の涙を流して泣きだした。メグロ君は体も大きく強そうに見える、いや実際強いのだが、喜怒哀楽がみんなの中では一番激しく、楽しい時は誰よりも大声で笑うし、悲しい時は人目も憚らず涙を流すのだ。

 

みんなはメグロ君を一生懸命慰めた。「でも2年以上も生きてたなんてすごいよ!きっとメグロ君が一生懸命に世話したからだよ。」とミノル君が言うとマナタ君もすかさず「うんうん、キバ太郎だってきっとメグロ君に感謝しているに違いないって!」そうやって仲間たちに慰められるにつれ段々と泣き止んできた。

 

そこへムタ君が「な〜に、今頃天国で元気にワシャワシャ歩いているさ」と言うのを聞き、その姿を想像したのか、なにやらまた悲しさがぶり返してしまい、再び泣き出してしまった。みんなに睨まれてムタ君は拝むように片手をあげてみんなに声を出さずに謝った。結局その日は最後までメグロ君の気分が持ち直すことは無かった。

 

 翌日、昨日のことがうそのようにメグロ君が元気になっていた。その訳を聞いてみると「いつまでも悲しんでいたらキバ太郎が成仏できないってじいちゃんが言ってた」だそうだ。

 

ムタ君が「キバ太郎が居なくなっちゃってメグロ君も淋しいだろうから、今日はみんなで新しいキバ太郎を探しに行かないか?」と言った。みんなは“あ、ムタ君ってばまた思い出させるようなことを言って”とそっとメグロ君の様子を伺う。すると意外にも「お、良いね」と大して気にした様子もなく賛成した。みんなはホッとしてすぐに計画を始めた。

 

 ミノル君が「やっぱり虫捕りといったら鬼じいのところかな」「うん、あそこなら昼間でも捕れるもんな」とメグロ君。ほかのみんなも「よし今日は新記録に挑戦だ」などと気分は盛り上がってきた。」放課後になると走って下校し、いつもの広場に集合した。そしてみんなが揃うと早速鬼じいの山へと向かった。

 

 みんなは山へ入る前に鬼じいの家に寄り、玄関の前で大声で挨拶をした。すると家の奥の方から足音が聞こえてきて、やがて玄関がガラガラと開いた。「おや君たちか、今日はいったい何だい?」マナタ君が「おじいさん、これから山に虫捕りに入りたいんですけど良いですか?」と聞いた。「ああ、良いとも良いとも、たくさん捕っておいで」とニコニコしながら言った。みんなは声をそろえて「ありがとうございます、行ってきまーす」。鬼じいはみんなをいつまでもニコニコしながら見送った。

 

この山は一見普通の山に見えるが、実はそこら中に警報機が仕掛けてあり、黙って山に入ろうものならすぐに鬼じいに見つかってしまいコッテリと説教されることになる。そのせいで近所の子供たちは恐怖のあまり決して山へ近づこうとはせず、おじいさんも“鬼じい”と呼ばれるようになった。そこまで厳重にしているのはこの山に隠されている秘密のせいなのだが、それはまた別のお話。

 

だから、そんなイワクツキの山に何のお咎めも無く入れる冒険クラブの面々は、子供たちの間では羨望の的だった。当然他の子供たちからはどうして入れるのかを聞かれるのだが、その度に「モモタ君の遠い親戚だから」と口裏を合わせることにしている。

 

 山の中にはいつもカブトムシやクワガタがよく居るポイントがいくつもあったので、それを順々に回っていくことにした。1番目、2番目のポイントには居なかった。そしたら3,4,5,6番目にも居らず、結局12箇所全部を周ってみてもどういうわけか今日に限って全然見つからなかった。

 

 「おっかしいなぁ、今日は全然居ないぞ」マナタ君が言うと「まだ時期が早いのかなぁ」とミノル君。「いやきっと湿気のせいだよ」と犬のように辺りの臭いをくんくん嗅ぎながらモモタ君。確かに辺りにはジメッとした臭いがしているものの、それはいつもと大して違いはない。

 

そのあともあちこちと探し回ったが見つけることが出来なかったため、「また明日来よう」ということになりその日は諦めることにした。

 

 次の日は休日だったので朝早くから集合した。だが天候はあまり良くなく、昼過ぎには雨の予報が出ていた。昨日の帰り際、鬼じいには明日の朝早く来ることを伝えてあったので、いつものように家の前で声をかけることもなく山へと入っていった。

 

「やっぱり虫捕りは早朝か夜だね」とムタ君が言うと「僕は絶対朝派だな!」と怖がりのモモタ君。軽口を叩きながらも逸る気持ちで自然と急ぎ足になり、その言い訳のように「雨が降る前にさっさと捕まえようぜ」と言ったメグロ君の声にみんなは空を見上げた。

 

まだ明るいものの雲が厚く空を覆っていて、本当に昼までもつのか微妙な天気だ。みんなは昨日と同じポイントを期待と共に周った。ところがどうしたわけかどのポイントにも昨日と同様、まったく虫たちの姿が見えない。「う〜ん、居ないなぁ」みんなはがっかりしながら樹液が溢れている木を見つめた。

 

とその時「ん、メグロ君ポケットが随分膨らんでいるけどそれなに?」とモモタ君が聞いた。「ああ、これ?ここに来る途中でさ、サンダーマンのガチャガチャがあったんでちょっとやってみたんだよ」「え、サンダーマン出た?」みんなは虫捕りのことも忘れてメグロ君の周りに集まった。サンダーマンとは今人気の特撮番組のヒーローで、非フタル酸系塩ビという素材で出来た高さ5cmほどのフィギュアで、いま小学生の間で大ブレイク中だった。

 

メグロ君は自分のポケットに手を突っ込みそれを出すと、カプセルを開けて中身を取り出し、とわざとらしくてガッカリした様子で「また戦闘員だった」とみんなに見せた。メーカーがレア性を追求しているのか、サンダーマンやその敵のモンスターを当てるのが極めて難しく、ある子供は50回連続で戦闘員が出たという都市伝説まで生まれるほど戦闘員の出る確率が高かった。「あー、また戦闘員かぁ、僕も12体も持ってるよ」ミノル君がいうと、同じように大量に戦闘員を持っているみんなもメグロ君と一緒にため息をついた。

 

その時「あ、そうだ!」急になにかを思い出したようにミノル君が声を上げた。その様子にみんながミノル君を見ると、背負っていたナップザックを降ろし、中へ手を突っ込んだ。「今日はさ、こんなこともあろうかと思ってこれを持ってきたんだよ」となにかを取り出した。「お、それは!」「ミニミニ光線銃じゃん!」

 

「うん、そう」「それでどうすんだ?」ムタ君が聞くと「虫の世界はやっぱり虫サイズじゃないと解らないと思ってさぁ」。するとマナタ君が「ああ、なるほど!虫の大きさになって探すのか」と言った。「うん、その通り」「ナイスアイデアだ」みんなは口々に褒め、お互いの肩を叩き合うと早速準備に取り掛かった。ミニミニ光線銃とは随分前にミノル君が開発したもので、この光線を浴びるとどんどん体が小さくなり、100分の1になってしまうという優れものだ。前に雨で外に遊びに行けない時にこれで小さくなり、おもちゃの野球盤の上で本当の野球をしたりしたこともある。

 

 ミノル君は「ほらこんなのも用意してきたよ」とカメラのフィルムケースを取り出した。振るとカラカラと音がする。「何が入ってるの?」マナタ君が聞くと、蓋を開け、中身を手のひらに取り出した。それは虫ピンだった。「それどうするの?」モモタ君の質問に「まぁ、念のための武器だよ」どうやら小さくなったときに使う武器のつもりらしい。「お〜!」みんなはその用意周到さに感心した。

 

ケースの中には糸も入っていて虫ピンを樹液の脇にギュッと刺し、そこに糸を縛りつけ長く下までたらした。すると風が少しあって、糸の下の方がそよいでしまうので、そばにあった石で糸を押さえておくことにした。「これでカブトムシが木を登っていっても追っかけられるな」とメグロ君。光線が当たらないように各々の虫ピンをあらかじめ地面に置くと準備は完了だ。

 

 ミノル君以外のみんなが横一列に並んだ。「用意は良い?」「オッケー!」「よし行くぞ!」ミノル君は光線をみんなに浴びせた。今の身長から計算すると、みんなは1.5cm前後になるはずだ。その効果は2時間ほど続くので十分な冒険が出来るだろう。そして時間がくればまたもとの大きさに戻れる。

 

段々と小さくなっていくみんなを見ていると、ミノル君の足下を見ていたマナタ君がハッとした顔でこちらに向き直りなにかを叫んだ。しかし体と一緒に声も小さくなるため何を言ったのか判らない。「何を言ってたんだろう・・・ま、良いか、あとでゆっくり聞こう」そういうと今度は自分に光線銃を向けて発射した。

 

ミノル君もどんどん小さくなり、やがてみんなと同じサイズになった。小さくなってみると、さっきまで静かだった森の中には様々な音が溢れていた。風に葉っぱがなびく音はまるで台風でも来ているかのように聞こえるし、周りの落ち葉の下や枝の向こうからは何かが足早に歩いているような音が聞こえる。

 

足元においてあった虫ピンを手に取ると、ズシッとした重みがあり、結構な武器になりそうな気がした。そこへマナタ君が慌てた顔で、他のみんなはどうしてマナタ君が慌てているのか判らず困惑した顔で一緒に走ってきた。

 

そばまで来てハァハァと息を切らせているマナタ君に「そんなに慌ててどうしたの?」ミノル君が聞くと「全員小さくなっちゃダメだよ!」とマナタ君。ミノル君は訳がわからず「え、なんで?」とキョトンとした顔で聞き返す。「誰か一人はもとの大きさのままで居ないとなにかあったときに大変じゃないか。」「え、だって僕は最初からみんなで小さくなるつもりだったよ」「僕はミノル君はそのままだと思っていたんだ。でもミノル君の足元を見たら虫ピンが置いてあったから・・・、まさかと思って小さくなる途中で大声で叫んだのに・・」

 

それを聞いたメグロ君が「なんだそんなことか、武器もあるから大丈夫だよ」と虫ピンをブンと一振りして気楽に言った。マナタ君はみんなを見ながら言った「前に本で読んだことがあるんだけど、もしも人間も動物も虫も同じ大きさだったら、地球は虫の星になっていたらしいよ」「え、なんで?」「虫ってさ、小さいからあまり気にならないけど、ものすごく力もちだろ?」「そういやカブトムシは自分の体重の100倍くらいまで持てるって聞いたことあるな」とムタ君「100倍ってもしも体重が50kgだとしたら・・・、5t!!」「それじゃもしも自動車だったら、5台以上も持ち上げられるってこと?」とミノル君。

 

「それにスピードもすごい。ゴキブリの走る速さは車と同じ大きさだとすると300km/hにもなるらしい」「さ・300km/hって新幹線と同じじゃない!」とモモタ君。「さらに忍者のように周りに擬態して獲物を捕まえる」「ひゃ〜!」みんなは急に怖くなってしまった。手にしている虫ピンの武器が急に頼りなく思えてきた。「どうしよう・・」ミノル君がいうとマナタ君は「とりあえずは元の大きさに戻るまでどこかでじっと隠れていよう」と言い、みんなが隠れていられそうなところを探すことにした。

 

しかし、いざ探そうと周りを見回してみると、まるで広場に置いてあるドカン位の太さのミミズが“ズゾゾゾー”という音とともに這っていたり、大型犬くらいの大きさのテントウムシが歩いていたりと、どこもかしこも虫ばかりだった。「さっきは全然見えなかったのに・・・」メグロ君が絶句する。「普段は気にしていないから気がつかなかったけど、こんなにたくさんの虫が居たんだなぁ」とモモタ君も恐々と辺りを見まわしている。

 

「今はまだ大人しそうな奴らばかりだけど、もっと怖いやつがいつ来るかも知れないから急いで隠れる場所を探さなくちゃ!」マナタ君の言葉にみんなも慌てて安全そうな場所を探しだした。メグロ君とムタ君は力を合わせて大きな落ち葉をめくってみた、すると(普段の大きさだったら)3m位の大きさのゲジゲジが迷惑そうにモゾモゾと現れて慌てて逃げ出した。

 

マナタ君、ミノル君、モモタ君は自分たちでもやっと入れそうな穴を見つけたが、中は真っ暗でしかもガサゴソと奥で何かが動き回るような音が聞こえてきたため、足音を立てないようにその場を離れた。そのあともみんなは朽木の隙間や大きな石の陰など探してみたものの、良さそうなところは既に先客が居て、自分たちが避難できそうなところは見つけることが出来なかった。

 

探し疲れて、元の場所の辺りで休んでいると、モモタ君が急に「み、みんな大変だ」と真っ青な顔でつぶやいた。モモタ君が見ている方角に目をやると大きな木の向こうからまるでヘリコプターのような爆音とともに何かが近づいてくる。その正体に気づくと誰もが一斉に凍りついた。スズメバチだった。目では捕らえられないほど激しく羽ばたく羽根に、まるで背中を捕まれてぶら下がっているような格好でこちらに向かって飛んでくる。

 

マナタ君がすかさず、「動くな!」と押し殺した声で制し、「ひとまず隠れよう」と足元の大きな落ち葉を指差した。みんなは腹這いになって落ち葉の下へと潜り込んだ。幸いにもそこにはバスケットボールほどのダンゴムシしか居らず、しばらくは隠れて居られそうだ。

 

スズメバチはみんなが息を潜めている落ち葉の真上辺りを何度か通り過ぎたあと、どこへともなく去って行ってしまった。しかし間近で聞いた爆音と、あの恐ろしい姿のせいで居なくなったあともしばらくは外へ出ることが出来なかった。

 

葉を少し持ち上げて辺りをキョロキョロ伺ってからやっと外に出てくると「ああ、怖かった〜」とモモタ君が小声で漏らした。ほかのみんなも同じように小声で“うんうん”とうなずいた。

 

やがて「飛んでくるのは反則だよな〜」などと冗談を言える余裕が出てきた頃、マナタ君が「あとどのくらいで元に戻るんだろう」とミノル君をみた。ミノル君は腕時計を見ようと左腕を上げたが、「あ、荷物と一緒に置いてきちゃった」と左手首の辺りをさする。

 

「あ、そういえば!」急にメグロ君が叫んだ。「なになに?」「今日俺さ、サンダーマンのガチャガチャ持ってきたでしょ?そのカプセルがカバンのところに置いてあるんだけど、その中なら安全だと思わないか?」「おー、それが良い!」「そうしよう、そうしよう!」みんなは辺りを伺いながら、荷物が置いてある場所まで急いで戻った。

 

「あ、あそこにあった!」カプセルを見つけるとみんなは駆け出した。カプセルは都合よく開けたままで、地面に伏せた格好で落ちていた。そして近くまで来たとき「危ない!止まれ!」とマナタ君が大声で叫んだ。みんながマナタ君の方を見ると、リュックの上の方を指差して言った。「カマキリが荷物の上に居る!」

 

恐る恐る振り返ってみると、リュックの上にはでっぷりとしたお腹で大きなカマを構えたカマキリが複眼でみんなを見下ろしていた。思わず手にしていた虫ピンを構えたがそんなものが役に立つとは思えない。なぜなら相手はまるで信号機のように巨大だったからだ。

 

「みんな、ゆっくりとカプセルの中に入ろう」マナタ君の声に「俺は最後に入るからみんな先に入ってて」とムタ君が答えた。というのもムタ君は既にカマキリのすぐ下、あと2・3歩でカマが届くのではと思えるところまで来てしまっていたからだ。もしもムタ君が急に動きでもしたら・・・、人一倍素早いムタ君と言えどもあの恐ろしいカマから逃げ切れるかどうか判らなかった。

 

ソロリソロリと少しずつ移動し、やっとムタ君以外のみんなが伏せたカプセルの中に入り込んだ。そしてムタ君が素早く入れるようにカプセルの縁を持ち上げて、「ムタ君みんな入ったぞ。」と声をかけた。ムタ君はカマキリの方を向いたまま「判った、今行く。」と押し殺した声で答えた。

 

カマキリは獲物がもっと近づいてくるのを待っているのか、相変わらず微動出せずにムタ君を見下ろしている。ムタ君が少しずつ身体をかがめると、それに反応してかカマキリも心持ちカマをわずかに持ち上げる。

 

カマキリの足元が少し震えた一瞬後、カマキリが大きくジャンプした。それと同時にムタ君もその場に虫ピンを投げ捨て大きく後ろへと飛んだ。目の端で今まで自分が居たところに大きなカマが斜め上から振り下ろされるのが見えた。うまい具合にバク転を決め、着地するときに反回転。ここまでは頭の中で考えていた通りうまくいった。あとはカプセルのところまでダッシュするだけ!と思った瞬間、なんと足が滑った!

 

無防備に四つん這いになったまま、自分でも信じられない思いでみんなの方を見ると、マナタ君やメグロ君が大きく口を開け、恐怖の顔で目を見開いている。首だけで振り返ると図体の割には素早く、跳ねるような足取りで近づいてきたカマキリがムタ君に向かって容赦の無い一撃を振り下ろそうとしているところだった。

 

そのときカマキリにとって不運が訪れた。今まさに刈り取ろうとした獲物の前に突然なにかが立ちはだかったのだ。それはあの人気の無い“戦闘員”だった。

 

今よりほんの少し前、カマキリは最初木の枝に逆さにぶら下がり獲物が来るのを待っていた。するとすぐ下においてあるリュックの上に無造作に置かれた戦闘員を見つけた。しかもそのときチャックを開けっ放しのリュックが風を受け大きく膨らんだため、転がるそれがまるで生きているかのように見えた。

 

そのためカマキリは獲物と勘違いし、わざわざ枝から飛び降りて近寄ってきた。しかし近づいてみるとそれは美味そうな匂いもせず、カマの先でコツコツと突付いてみても全く動かないし、とても硬そうだ。獲物じゃないことにガッカリし、邪険に踏みつけていたところへ今度は本当の獲物がやって来たのだった。

 

カマキリに足蹴にされ微妙に位置の変わった戦闘員は、再びリュックに風が入り込むとズルズルと滑り落ち、その結果まるで身を呈してムタ君を守るかのように、カマキリの前に立ちはだかることになったのだ。

 

振り下ろしかけていたカマは止まらず、ガキッという音をたてて“戦闘員”の腰の辺りに食い込む。しかし戦闘員は肘を上げ直角に曲げた片腕を胸の前で水平に構えた格好で「そんな攻撃、俺には効かないぜ!」とでも言っているかのように不適な笑みを浮かべている。そのスキを逃さずムタ君はみんなの待つカプセルに飛び込んだ。カマキリは食い込んだカマの一振りで戦闘員を横様に投げ倒すと今度はゆっくりとカプセルのところまでやってきた。

 

小さい三角の頭をクリクリ回転させ、透明なカプセル越しにみんなを眺めていたと思うと、いきなりカマを振り下ろした。ガン!・・・ガン!ガン!。カプセルはビクともしないが、その音は中で反響し、鼓膜が破れそうだ。

 

その後も何度かカマでカプセルを叩き、どうやら歯が立たないと判ると再び頭をクリクリと動かし、まるで見せ付けるように恐ろしげな口でカマの手入れを済ませるとどこへとも無く去っていった。その恐ろしさと大きさに圧倒された5人がやっと話が出来るようになったのは、カマキリが去り見えなくなってから、なおしばらく経ってからだった。

 

「俺、これほど怖いと思ったの初めてだ・・」とムタ君が身震いする。他のみんな「ももうダメかと思ったよ」と口々に言う。「あのとき戦闘員が落ちてこなかったら今頃カマキリに食べられていたんだろうな」とカプセルから少し離れたところで横たわる戦闘員を見る。

 

結構硬い素材で出来ているはずなのに、倒れている戦闘員の腰の辺りにはギザギザのカマのあとがくっきりと残っているのが見える。「あとは時間までここに隠れていれば安心だ」「もう絶対ここから出ないぞ!」。安全なカプセルに守られているので、段々と元気が蘇ってきた。

 

とその時、すぐ近くでまるで爆弾が落ちたような音がした。ビクッと体をふるわせたみんなは、反射的に音のした方を見た。しかしどこも特に変わった様子はない。不思議そうに顔を見合わせていると再びあの音がした。しかも段々と次の音までの間隔が短くなってきている。

 

その正体は雨だった。しかも悪いことに大粒で、カプセルの上にも容赦なく落ちてくる。その衝撃はものすごく、カプセルに当たるたびにガーン、ドーンという音とともに衝撃で少し浮き上がる。もしも外に居てこの直撃を受けたら・・・骨折程度ではとても済みそうも無い。

 

雨は見る見る激しさを増し、辺りはあっという間に水浸しになってしまった。水はカプセルの中にも入ってきて、既にひざの上くらいまで水に浸かっている。まるで浸水したテントの中にいるような気分だ。

 

川のように流れ始めた水に押され、カプセルが少しずつ動き始めた。カプセルが向かっている先は今居るところよりも一段低く、そのせいで小さな流れがいくつも合流し、既に激しい濁流となっている。もしもあそこまで流されてしまったら・・・考えるだけでも恐ろしい。

 

みんなは懸命にカプセルを支えるが、カプセルの広い面が押し流そうとする水の力をモロに受けているため、徐々に押し負かされていく。「もう、ダメだ、カプセルから出よう!」マナタ君が言うとみんなはカプセルを大きく持ち上げて外へと脱出した。安全を約束してくれるはずだったカプセルは勢いを増す濁流に入ると、ものすごい勢いで下流へと押し流されていき、あっというまに見えなくなってしまった。

 

激しく振ったが、夕立のようにあっという間に上がった雨は、そこかしこに川を出現させ、森はさっきまでと一変していた。いつの間にか武器の虫ピンも失くし、無防備となってしまった5人だが、その時ほんのわずかの間だけ顔を見せた太陽が、森をキラキラと輝かせる様子に思わず見とれてしまった。

 

「綺麗だな〜」「なんか新しい地球って感じがするね」などと感想をもらしてたのも束の間で、辺りではすぐに虫たちがゴソゴソと動き始める音がしはじめた。ミノル君が「たぶんあと30分ぐらいだ、それまでどこかに避難しよう。」そういうとまたみんなは荷物が置いてあるところまで戻ってきた。なにかいい物が無いか、荷物の周りを周ってみた。

 

残念ながらあまり良さそうなものは無く、特に期待していたカプセルのもう半分も、雨で流され、どこかへ行ってしまっていた。「そうだ、高いところの方が安全なんじゃないか?」メグロ君の提案で、小さくなる前に用意していた糸のところまで行って見ることにした。

 

糸をたらしておいた木はすぐに見つかった。たくさんの葉が雨をはじいたためか、木の幹はところどころがまだ乾いていて、糸も無事ついたままだった。しかし、すぐ下まで来てみると困ったことに気づいた。糸が飛ばないようにと置いた小石が大きすぎて糸のところまで手が届かないのだ。しかも石は丸く角が無いため登ることすらできない。

 

「なにかはしごみたいなものが必要だな」「落ちている小枝でもあれば良いんだけど・・」そんなことを話していると急に石がグラリと揺れた。「わ〜!」みんなは飛び退り、何が起こったのかと見つめていると、なおも石はグラッとゆれ、やがて放り投げられたように脇へ転がった。

 

石が置かれていたすぐ下の土の中から大きな角がニョッキリと出ている。「あ、あの角は!」「カブトムシだ!」みんなが見守る中、カブトムシはグイグイと穴から這い出し、巨大な全身を現した。穴から出ると、まるで伸びをするように角を大きく上下に振り、すぐに木にとりつくとグングン登り出した。やがて樹液の出ているところへたどり着くと顔を埋めて蜜を舐め始めた。

 

「うおーデカかったなぁ」感激したようにムタ君が言うとマナタ君も「さすがに貫禄あるなぁ」と答える。するとモモタ君が「蜜をなめているところをそばで見てみたいと思わない?」と言ったのをきっかけにみんなも“そうしよう!”と糸を伝ってすぐそばまで行って見ることにした。

 

さっきは気がつかなかったが、糸は等間隔に結ばれていてすべることもなく上りやすかった。それでも樹液のところまでにはかなりの高さを登る必要があったので、だいぶ息が上がってしまった。近くまでくるとゾリッ、ゾリッという音が聞こえてきた。なめているというより、削っているような音だ。「こんな音がしてたんだな!」誰もが新発見に驚きの声を上げる。

 

すぐそばで見るカブトムシはしきりに触覚を細かく動かしながら樹液を舐めている。不思議なことに、こんな巨大なカブトムシのそばに居るというのにまるで怖くない。みんなは一心に見ていた。

 

と再びあの恐怖の爆音が聞こえてきた。「あ、スズメバチがまた来た!」マナタ君の声にみんなもハッと我に返った。振り返るとあの大きなスズメバチがもうすぐそばまでやってきている。「わー、こっちに来るよ!」慌てて周りを見回すと、小さいものの5人が入れるくらいの木のウロを発見した。

 

すぐにみんなは糸を大きく揺らし、木のウロへと逃げ込んだ。それと同時に着地したスズメバチはみんなのことには気づかない様子で、樹液のところへと向かった。しかし、既にカブトムシが樹液をなめていて、そのままではスズメバチが入る隙間がない。スズメバチはカブトムシの周りをうろうろと周り、なんとか潜り込もうとするがカブトムシは頑として譲ろうとはしない。

 

スズメバチは大きなアゴでカブトムシの足や角に噛み付くが、カブトムシはたまにうるさそうに足でスズメバチを払う程度でそれ以上気にする様子もなく、相変わらず樹液をまめ続けている。

 

その様子を見たミノル君が「すごい!完全に無視してる。」とその大物振りを見て思わずもらした。「うん、まるで相手にしてないね」とモモタ君も唸る。樹液までたどり着けないスズメバチは仕方なく辺りをうろうろと歩き始めた。すると覗いていたこっちに気づいたのか足早に近づいてきた。

 

みんなは慌てて奥へと引っ込み、息を潜めて入り口を注視していると、スズメバチの大きな顔がニュッと現れた。「わーっ、見つかった!」「もっと奥へ入って!」とウロの中では悲鳴が巻き起こる。ところがラッキーな事にスズメバチは体が大きすぎて中へ入ることが出来ない。諦め切れないスズメバチは大きな頭をグリグリと無理やり入れようとしたり、入り口を大きなあごでガリガリ噛んでみたり、更には前足を伸ばしてみたりと一通りやってみたが、どうしても無理だと判ると、それでもあきらめ切れないのか、羽根をブンブン言わせながら何度もウロの周りを周っている。

 

入ってこられないことが分かるとみんなは落ち着きを取り戻し、溜まっていた息をふうと吐き出した。「良かったぁ」「ここに隠れていればもう大丈夫だね」「時間になるまでずっとここに居るか」とメグロ君が言うと、ミノル君が「ずっと・・・ん? ああ、いけない!」と叫んだ。

 

みんなが慌てて「どうしたの?」と聞くと「僕たちもうすぐ元の大きさに戻っちゃうよ!」と言う。それを聞いてなぁんだと言う顔で「あ〜、やっと戻れるのか」「長かったなぁ」などとのんびりした様子でムタ君たちが答える。

 

しかしミノル君は相変わらず慌てた様子で「もしも、この穴の中で大きくなり始めたら・・・」みんなもあっと言う顔になった。「一体どうなるんだろう?」「多分押しつぶされたトマトのように・・」みんなはその様子を想像し「ウエッ」顔をしかめた。

 

「でも、まだ外にはスズメバチが居るから出られないよ。あんな大きなアゴで噛みつかれたら、腕くらいすぐに千切られちゃいそうだ・・」とメグロ君「でも一刻も早くここから出ないと大変なことになるよ!」みんながどうしたら良いか迷っていると外の様子を伺っていたマナタ君が「みんな、早く!いまなら外へ逃げられるぞ!」いつのまにかスズメバチはカブトムシのところへリベンジしに戻っていったようだ。

 

「よし今のうちに脱出だ!」入り口に殺到すると「あ、糸があんなところに!」さっきウロに逃げ込んだとき、とっさに木の新芽のところに引っ掛けておいた糸がスズメバチが歩き回ったときに引っ掛けたらしく、手が届かないところにぶら下がっていた。

 

「これじゃ下に降りられないよ」「体が大きくなり始めたら飛び降りてみようか」「でもこの高さじゃ大怪我しちゃうよ」するとムタ君が「俺が糸を取ってくるからここで待ってて」と言うなり、ウロから出て行った。ロッククライミングのように木の隙間に指を突っ込んだり、微妙な凹凸に足を引っ掛けながら糸のところまでジワリジワリと近づいていった。

 

やがて糸にたどり着くとみんなは小さく歓声を上げた。ムタ君は糸を揺らし反動をつけると、みんなのところまで戻ってきた。「さ、早く脱出しよう!」みんなは糸に掴まり、ムタ君を先頭に、そしてマナタ君を最後に下り始めた。

 

スズメバチはしつこくカブトムシに突っかかっていくもののやはり相手にされず、樹液にもありつけなかった。そして何十度目かの挑戦で、うまく大アゴがカブトムシの足の付け根に食い込むと、怒ったカブトムシの猛反撃を食らい、大きな角でしたたかに投げ飛ばされた。羽根があるので落下はしなかったが、力では勝てないことを思い知らされた。

 

そのとき眼の隅に糸を伝って降りていくみんなに気づいた。スズメバチは爆音を轟かせながらみんなの方へ飛んで着て、すぐ近くに着地すると、足早に追いかけてきた。みんなは手が摩擦で火傷するかと思うほどスピードを上げるが、垂直な木の幹を普通に歩けるスズメバチとでは競争にもならない。

 

このままでは数秒後には捕まってしまう。すると先頭を行くムタ君が何かに驚いて「あっ!」という声を上げた。続いてミノル君やメグロ君もなにかに驚いているような声を上げた。しかしマナタ君の方はそれを確かめる余裕など全く無い。

 

スズメバチとの距離はもう手が届きそうなほど近く、しきりに前足を伸ばし捕まえようとするが、マナタ君がどんどん後ろへと下がっていくので、なかなか足が届かない。じれたのか今度は大きなアゴをいきなりマナタ君の頭めがけて突き出した。

 

思わず首を引っ込めた頭の上でジャキッという音とともにアゴが閉じられる。そのあとも執拗に脚やアゴを突き出してくるのを、その度に糸の陰に隠れたり、手を緩めて一気に1mほど降り(落ち)たりして今のところは奇跡的にも無傷でかわしている。でもこんな状況では降りる事に専念出来ず、みんなとは大分距離が開いてしまったようだ。

 

「みんなはもう無事に降りられたかな?」などと思ったその時、すぐ下から「早く降りてこい、そのまま、そのまま、あっ、ちょっと右」などという声が聞こえてきた。なにかに引っかからないように誘導してくれているようだが、もうとっくにずっと下まで行ってしまっていると思っていただけに、すぐ近くで声が聞こえてきた事に少し驚いた。

 

逃げながらも目を離さずに居たスズメバチの追いかける様子が少し変わった。いままで大またで追いかけてきたのが心持ち小またになったのだ。“あっ、これは!”マナタ君が思ったとおり、スズメバチは一気に勝負を決めるためその場から飛び立ったのだ。マナタ君はそれと同時に糸を掴んでいた手を離した。落ちるスピードは飛んで追ってくるスズメバチとほぼ同じで、等間隔でにらみ合ったまま落ちていった。

 

すると突然両脇に下から棘のついた黒い電柱のようなものが現れ、その幅が急に狭まったと思うとバキバキというものすごい音とともにスズメバチを挟み込んだ。一方マナタ君は落下し続け、それまで等間隔だったスズメバチとの距離は急速に広がって行った。

 

“一体何が?”と思ったとたんドスンという衝撃とともに落下が止まった。周りをみると糸を何重にも体に巻きつけたメグロ君に両手で抱きかかえられていた。ほかのみんなもすぐそばでメグロ君を必死で支えている。ただその場所は木の幹ではなく何か黒いものの上だった。

 

「大丈夫か?」メグロ君が声をかける。「う、うんありがとう」何がどうなっているのか良く判らず、またスズメバチの方を見ると、まだ黒い電柱のようなものに身体を挟まれ必死にもがいている。「あ、これって!」「うん、クワガタだよ」とメグロ君。そこはクワガタの大きな背中の上だった。クワガタはなおもスズメバチを締め付け、再び豪快にバキバキという音をさせた後、ふっとあごを緩めた。

 

スズメバチは無残にも身体を半分千切られてみんなの脇を下へと落下していった。クワガタは何も無かったように樹液の方へと歩いていく。みんなはそれを見送ったあとやっと地面まで降り立った。

 

すると間もなく体が大きくなり始めた。元の大きさに戻るにつれ、今しがたまで聞こえていた嵐のような風の音や、虫たちのうごめく音が徐々に聞こえなくなっていた。「ああ、良かったぁ。無事に元に戻れた!」みんなはその場にへなへなと座り込んだ。その足元では半分からだが千切れながらもまだ触覚を動かしているスズメバチが数匹の蟻に囲まれ、巣へと運ばれようとしているところだった。

 

「さっきのクワガタが居なかったら僕たち大変なことになってたなぁ」とマナタ君がスズメバチの大アゴを思い出してブルッと震えた。「クワガタが居たのは良いとして、良くタイミングよくスズメバチを挟めたね」とモモタ君が言うと、メグロ君が「キバ太郎を綺麗にしてやるときに筆で身体を拭いてやるんだけど、触覚のところを拭くといつも怒って大アゴをギュって閉めてたのを思い出したんだ。」

 

「ああ、だから俺にクワガタの触覚のところまで行って、合図したら思いっきり触角を叩けって言ったのか」とムタ君。「おかげで助かったぁ」とマナタ君。メグロ君は照れながら先ほどのクワガタを目で探した。ところがカブトムシは相変わらず樹液をなめているのにクワガタの姿はどこにも見えなかった。

 

「あれ?さっきのクワガタは?」みんなも立ち上がり、反対側も探してみたがやはりクワガタはどこにも居なかった。するとメグロ君が静かに「もしかしたらキバ太郎だったのかもしれないな。」「えっ?」ミノル君が聞き返すと「俺たちが危ない目に会ってるのを見て、きっとキバ太郎が助けに来てくれたんだよ」とメグロ君は空を見上げた。他のみんなも「そうかもしれないな」と同じように空を見上げた。

 

荷物の置いてあるところまで戻ると、さっきの雨のせいでなにもかもがビショ濡れだった。すぐ脇にはあの戦闘員が雨で出来た小川の中に落ちていた。ムタ君はそっと拾い上げるとメグロ君に「なぁこれ良かったら俺にくれないか」と言った。ムタ君の手の中にある戦闘員を目にすると「良いよ、なんたって命の恩人だもんな」と笑った。

 

「うん」言いながら手の中にある戦闘員を見ると、肘を上げ直角に曲げた片腕を胸の前で水平に構えたポーズので相変わらず不敵笑みを浮かべている。裏返してみると、カマキリにやられた傷がかすかに残っていた。ムタ君はその傷をそっと親指で撫ぜ、小さな声で「有難うな」とつぶやいた。

 

みんなで山を降りていくと、ふもとの家の前で鬼じいが待っていた。「おお、やっと戻ってきたか。雨は大丈夫だったかい?」「はい、何とか大丈夫でした」といってもずぶ濡れの格好を見ると顔をしかめ「さあ、早く家に入って身体を拭きなさい、服が乾くまでの間におやつでもどうかな?」みんなは喜んで招待された。

 

服を乾燥機で乾かしてもらっている間、みんなは湯上りのようにタオルを身体に巻きつけ、出してもらったおやつを食べた。不思議なことに鬼じいの家にはいつ来てもおやつが用意してある。

 

「それで虫の方はどうだった?」みんなは顔を見合わせて「怖かった!」と言った。「なんだ虫が怖いだって?、女の子みたいなことを言って君たちらしくもない。」「でも今日は本当に、あんなに虫が怖いとは俺たちも始めて知ったんだよ」とメグロ君が真面目な顔で答える。

 

鬼じいはどういうことなのか良く判らなかったが「ほう、そうか。もしかしたら滅多に無い経験をしたのかもしれんな」と言うとそれ以上は深く聞かなかった。そして、思い出したように「そうだこんなものがあるんだけど、良かったら君たちにあげるよ」と引き出しからサンダーマンのフィギュアを取り出し、みんなの前に並べた。

 

「わーっ」みんなはおやつを食べるのも忘れてフィギュアを取り囲んだ。「良くは知らないが、これ人気らしいじゃないか」「うん、でもこんなのは滅多に出ないんだよ。いつも戦闘員ばかりでさ」とモモタ君。「そうかそうか、それじゃこれはみんなで仲良く分けるんだよ」と鬼じいはニコニコしながら言った。「はい!」

 

「ところで君たちは何のフィギュアが一番好きなんだい?」するとみんなは声を合わせて「戦闘員!」鬼じいは聞いていたのと違うので首を傾げたが、みんなが楽しそうに笑っているのを見て、一緒になって笑った。



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