ロボットの町 Episode2


後編


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 みんなでどうしたものか頭を捻っていると、丁度そこへ新たに掘り出されたロボットが運ばれてきた。見るとそれはこの町の町長だった。「あ、ドクだ!」マナタ君の声にみんなが振り返るとそこには砂を被りバッテリーも切れ、動けなくなったロボットの町の町長がいた。脚に当たる部分は3つのタイヤになっており、動けないながらもキチンと立っていた。

 

「急いで掃除を!」「あ、でももうオイルがないよ」「仕方ない、とりあえず充電してみよう」そして、コードを引っ張ってくると脇腹のあたりにあるコネクタに接続した。“ブーン”低い充電音がし始め、5分もするとドクは話すことができるようになった。

 

「おお、君たちか。この状況は・・」と首を回そうとしたが、“ジャリッ”という音がしてそれ以上動かなくなった。「う〜む、こりゃクリーニングが必要じゃな」「ドクごめん、もうオイルが無いんだよ」「オイル?」「うん、清掃用のオイルだよ」「あるぞ」「なにが?」「オイル」「え、どこに?」「ちょっとわしの体の向きを変えてくれんか」「おお、だいぶ掘れて来とるな。よし、あいつらにちょっと手伝ってもらおう」そう言うとドクの耳の辺りにあるアンテナの先が青くチカチカッと点滅した。

 

すると仲間を掘り出していたロボットたちの動きが一瞬止まり、今度は別の方向に向かって集まり始めた。「いまみんなに連絡したから、見ていてごらん」ロボットたちは広場があった辺りを一斉に掘り進める。砂をトラックに積みこみ、トラックは遠くに捨てに行く。これを幾度となく繰り返して行くうちに見る見るオイルをしみ込ませて黒くなった砂の部分が広がっていった。

 

それと同時にロボットたちもどんどん掘り出され、ついには置く場所が無くなり、積み重ねられていく。それを見たミノル君が「なんだか廃車置き場みたいになってきた・・・かわいそうだなぁ」と漏らす。「大丈夫じゃよ、捨てられているわけじゃないことはあいつらだって良く解っている。心配しなさんな。」

 

広場のあたりから大量の砂が退けられ、いつのまにか真っ黒い砂の部分が20m四方に亘って露出していた。「よし、このくらいで大丈夫じゃろ。スマンがわしをあそこまで連れて行ってくれんか」ミノル君たちはドクを押しながらその広場までやってきた。

 

「あれ、ここ舗装されている」「あ、本当だ。これアスファルト?」いままで、遠目に見ていた、黒い部分はオイルをしみ込ませた砂などではなく、きれいにアスファルトで舗装されていた。

 

「まだ全部とはいかないが、少しづつ整備しているんじゃ」「え、でも材料はどこから手に入れたの?」「買ったの?」「いやいや、まぁ、話せば長くなるので後でゆっくり・・・」みんなの長くても良いから聞きたい!という目を見て仕方なく話し始めた。

 

「みんなも知っての通り、わしらの潤滑油はオリーブの木から採っておった。そのために遠くのオアシスから水を運び、木を枯らさぬようにしてきた。しかし途中でこぼしてしまったり、蒸発してしまったりと、ここにつく頃にはほんの少ししか残らん。仕方がないからまた汲みに行く。何とも非効率じゃろ?なので地下水をくみ上げることにしたんじゃよ。

 

長いパイプを何本もつなげて地中深くどんどん、どんどん掘って行った。そしたらな、なんと水じゃなく石油が出てきよった。」「石油?」「そう、石油じゃ。おかげで、わしらが使う燃料やオイル、はてはアスファルトまで手に入れることができたというわけじゃ。」

 

「すごい!それじゃ大金持ちだね!」「ん、金?そんなもの全然ないぞ」「え、だって石油が出る国はみんな大金持ちの人ばっかりだよ」「確かに売れば大金持ちになれるかもしれんな。でもわしらの中にはそうなりたいものなど一人もおらん。自分たちが必要なだけあればそれで良いんじゃよ」

 

「え〜、お金があれば、(最初に掘り出したロボットを見ながら)ちゃんとした脚だって付けられるのに・・」「なに、左右の脚が違っていても別に困っているわけじゃない。それに取り換えた後の脚はどうするのじゃ?捨ててしまうのか?それじゃ、今までわしらがされてきたのと同じことになってしまうじゃろう?使えるうちは使う。それがここでは当たり前のことなんじゃよ。」

 

話しているうちに広場の所まで来た。「よし、ここで良いぞ。」そして先ほどのように耳のアンテナの先端が青くチカチカッと光ると、突然下から建物がせり出してきた。ゴゴゴゴ・・ズーン・・・。せりあがってきたのは長方形の建物だった。しかし窓らしいものは一切ない。その大きさは横20m、縦5m、高さは6mくらいの全体的には長細いかまぼこの様な形をしていた。

 

見ていたみんなは驚き、「なんだなんだ!」「わー建物が出てきた!」「なにこれーっ!」と口々に叫ぶ。「これはなわしらのシャワー室じゃよ。「シャワー室?」「そうじゃ。」話しながらアンテナの先が青くチカチカッと光ると、ロボットたちが動けないでいる仲間たちを抱えてはその建物の中に運び始めた。

 

「ほれ、わしも入り口まで運んでくれんか?」言われて、建物を回りこむと、2m四方の穴があいていて、そこからベルトコンベアのようなものが突き出し、ベルトは中へと動いていた。そこへロボットたちが仲間を乗せるとどんどん中へと運ばれていく。

 

入口の所にいたロボットにドクを引き渡すと、ロボットは軽々とドクを持ち上げベルトの上に乗せた。「そんじゃちょこっと言ってくるわい」そう言い残すとドクは建物の中へ消えて言った。急いで入口の反対側へ行ってみると、そこにも穴が開いている。穴の中からはビューッとかシャーッとかパシャパシャとかなんだかいろんな音が聞こえてくる。そして、そこから次々とロボットが歩いて(あるいは車輪を使って)出てきた。

 

しばらくするとドクも出てきた。「はぁ〜、さっぱりしたわい!」みんなはそれを見て「わぁ!」とドクに駆け寄った。「動けるようになったの?」「なにここ?」「この中ってどうなってるんだ?」「ちょっと入ってみても良い?」

 

「コラ、一度に質問するんじゃない!さっきも言ったようにこの建物はわしらのシャワー室じゃ。こんな砂漠に住んでいると、ただ、それだけで関節には細かい砂が入りこんでしまう。以前は1月に1回ほど分解して掃除していたが、いまは石油のおかげでオイルもふんだんに使うことができる。それでこう言った施設を作ったんじゃよ。

 

中に入ると、まず最初に強風でホコリを吹き飛ばし、次は高圧でオイルを噴射して隙間に入った細かい砂を吹き飛ばすと同時に潤滑油を浸透させる。最後に充電が足りない者は急速充電室で充電。驚くんじゃないぞ、なんと5分じゃ!5分で1日分の充電ができるんじゃよ!」と自慢気に説明してくれた。

 

その間も動けるようになったロボットたちが続々と出口から出てくる。それを見て、ドクは「ここまでくればもう大丈夫じゃな。君たちには感謝してもしきれんな。そうだ疲れたじゃろう、人間は休まないといかんからな。」マナタ君たちはそれを聞くと、急に疲れを感じ、自分たちのテントに戻り、軽く食事をとるとそのまま倒れるようにして眠った。元気にしてはいたが、毎日の重労働で疲れ果てていたのだ。

 

みんなが眠っている間にも掘り出されたロボット達がシャワー室に運ばれ、動けるようになると掘り出すのに加わってと、作業する音は休みなく続いていた。

 

 マナタ君が目を覚まし、時計を確認すると午前8時を少し回ったところだった。「確か昨日寝たのが夕方の4時半ごろだったから・・・15時間半!」周りを見回すとまだみんな寝ている。「おい、起きろ!もう朝だぞ!」みんなに声をかけると「ふぁ〜、朝〜?」「おはよ〜」などと言いながらみんなも目を覚ました。

 

マナタ君から聞いて「え〜っ15時間以上も僕たち寝てたの?」「どうりで腹がすいているはずだ〜」テントから這いだしてみると、ロボットの町は既に3分の2ほども元の姿を現していた。みんなはビスケットと、ペットボトルのスポーツドリンクといった簡単な朝食を済ませると、ドクの所へと行ってみた。

 

既にドクの診療所は掘り出されており、中ではドクを含め5体のロボットが中に入った砂を掃き出していた。「こら、もっとそ〜っとやるんじゃ、そ〜っとな。」入って言ったみんなに気づくと「お、君たちか、良く眠れたかな?」「はい!」「もう寝すぎちゃった〜。」モモタ君が言うと「そうかそうか、それは良かった。人間だってメンテナンスは大切じゃからな。」

 

そしてタイヤを転がしてみんなのそばに来ると「君たち、本当に今回はありがとう。町のみんなを代表してお礼を言わせてもらう。もし、君らが来てくれなかったら、たぶんわしらはあのまま土の中で何十年も、もしかしたら何百年も埋まったままだったかもしれん。

 

何かお礼をしたいが、今はまだこんな状態じゃ。町が元通りになりったら改めてお礼をさせてくれんか?」ミノル君が「お礼なんて要りませんよ。僕たちはただ、友達を助けに来ただけなんですから。」「それに俺たちこの町の仲間だもんな」とムタ君がバッジを見せて言う。みんなも笑顔でうなづく。「そうか、そうかありがとう。」

 

 町の外で、そらどんに迎えに来てもらうあいだ、見送りに来たドクにマナタ君が「本当にもう手伝わなくて大丈夫ですか?」と聞くと、「あとはもう大丈夫。わしらだけで復興出来るじゃろう。」と町の様子を見ながら言った。「町が元通りに直ったら、また遊びに来てくれるじゃろうな?」みんなが「はい!」「また来るぜ!」と口々に答える。

 

 やがて到着したそらどんを見たドクは「これはまた大きな鳥だな!」そしてアンテナの先をチカチカさせ、どこかと交信してから「町のライブラリィにもデータが無いぞ。こりゃたまげた!」「そういや、ドクは初めてそらどん見るのかぁ。」「最初は誰でも驚くよね、そらどん大きいから。」

 

そらどんが「そろそろ行くか」「うん!」そらどんが大きく羽ばたくとグンッと地面が一気に遠くなった「ドクさよならーっ、また遊びに来るからねーっ!」「さよならーっ!」こちらに向かって7本の手を振るドクが見る見る小さくなっていき、やがて見えなくなった。

 

 ロボットの町から帰ってきて1月ほど過ぎたころ、裏山の洞窟探検を終え、ジャリ川の上流で見つけたスイカを頬張っているとき、ミノル君の携帯にメールが来た。

 

スイカでべたべたになった手をTシャツの胸のあたりでゴシゴシ拭いてから携帯を取り出し、読んでみると「んぁ、オウああエーウあ(ドクからメールだ)!」と口からスイカを飛ばしながら叫んだ。「んぉ、ウォクああ(ドクから)?」と聞いた。「おんえ、おんえ(読んで、読んで!)」

 

ゴクンとスイカを飲み込んみ、携帯に顔を近づけると「みんな元気かな?あれから町もすっかり元通り以上になり、みんな調子よく働いておる。それもこれもみんな君たちのおかげじゃ。あの時はお礼も出来ずに帰してしまって申し訳なかった。ついてはあのときのお礼をあらためてしたいので、是非来てほしい。それとちょっと困ったこともあってな、相談に乗ってほしいんじゃ。それじゃ待ってるからよろしくな」

 

招待された日付を見るとなんと明日だった。「よし、行こう!」「でも困ったことってなんだろう?」「聞いてみないとわからないな〜」「砂だって全部どかせたのかな?」「元通り以上になったって言ってるんだから、きっと大丈夫だよ・・・ん、元通り以上?」「以上ってなんだろ?」「もっと綺麗になったって事だよ、きっと。」

 

 そして翌日。いつもの広場でそらどんに乗ったみんなはロボットの町を目指した。やがてもうそろそろという時、なんだか透明な卵の殻をかぶせたようなものが見えてきた。近づいていくと、それは巨大なドームだった。半透明のため中は薄っすらとしか見えないが、ビルのようなものが見える。みんなで顔を見合わせているとミノル君の携帯が鳴った。

 

「やぁ、来たな。いま開けるからそこから入ってくれ」するとドームの天井の一部が回転し、そらどんでも十分には入れるほどの穴がポッカリと開き、みんなはそこからドームの中へと入っていった。

 

以前の町を想像していたみんなはあまりの町の変わりように、そらどんにしがみつくのを忘れて落ちそうになるくらい驚いた。町はまるで映画で観る未来都市に変わっていた。

 

 そらどんが着地すると、すぐにドクたちが近づいてきた。「おお、よく来た。待っておったぞ!」「ド、ドク。これどうしちゃったの?」ミノル君が聞くと「ん、まぁ色々とあってな。詳しくは食事でもしながら話そう。」そしてそらどんの方を見上げ、「大きな鳥君、君にもずいぶん世話になったな、ありがとう。君にもご馳走を用意させてあるから是非楽しんでいっておくれ。」そらどんも驚いているのだろうが、それを顔には出さずに無言でうなづいた。

 

 ドクを先頭に立ち並ぶビル郡の間を歩く。他のロボット達の姿はあまり見えない。きっとこのビルの中で働いているのだろう。みんなはドクについて一際高いビルに入っていった。広々としたロビーを抜け、エレベータの前まで来ると、その前で立ちふさがるようにして警護していたロボットがさっと脇によって道を空けた。

 

よく見れば、このハイテクなビルには似つかわしくない、体は所々凹み、左右で違う手足を持ったロボット達だった。それを横目にエレベータに乗り込み、扉が閉まると静かだが勢いよく上昇していく。やがて70と表示された階で静かに止まった。ドアが開き、エレベータを降りるとそこはなんだかものすごいことになっていた。

 

 床には真っ赤な絨毯が敷かれ、壁の3方は大きな窓がはめ込まれている。そして驚くべきはなんと天井も窓になっていて、そこから見える空にはのんびりとした雲が流れていた。

 

ドクはみんなが十分部屋を見回した後に、「さあ、こっちじゃ」と広々としたフロアの真ん中にポツンとおかれた丸テーブルへと案内した。最初は部屋が広すぎるせいで、小さく見えたテーブルもそばに着てみると裕に大人が10人以上は席に付けるほどの大きなものだった。

 

 みんなが席に着くとドクが「ちゃんと腹は空かせてきたかな?それじゃ早速食事にしよう」そう言うなり、アンテナの先が青く点滅すると、部屋の奥からロボットたちが次々と料理を運んできた。

 

テーブルの上に並べられていく料理は、今まで見たこともないようなものばかりだった。しかしどれもが美味しそうな匂いをさせていて、町のあまりの変わり様に驚いていたみんなは、急にお腹が空いていることを思い出した。

 

「さあ、まずはお食べ」「いただきまーす!」言うなり目の前の料理を頬張り始めた。「わぁ、このステーキ美味しい!」「あ、ハンバーガーもある!」「アチチッ、スープはもう少し冷めてからだな。」

 

本日のメニューは」テーブルの傍に立っているロボットが料理の説明を始めた。「シェフのおまかせサラダ、シェフのおまかせステーキ、シェフのおまかせフライ、シェフのおまかせスープ、シェフのおまかせハンバーガー、シェフの・・・」ロボットはその後も延々と「シェフの・・・」と言っていたが、みんなは食べるのに夢中でぜんぜん聞いていなかった。

 

ワイワイとはしゃぎながらどんどん料理を片付けていく。しかしテーブルの上の皿が空になると、またすぐに別の皿が現れ、いつまでたっても料理はなくならない。さすがにもう食べられなくなると、みんなは行儀悪くも、ふかのふかの絨毯の上にお腹を上にしてゴロンと横になった。

 

モモタ君とメグロ君が最後までがんばっていたが、やがて二人もギブアップして床に寝ているみんなの仲間入りをした。「ふぁ〜、もうダメ、もうこれ以上何も入らない〜」「う〜、苦しい、食べ過ぎたぁ」そしてそのまま休んでいると「どうじゃ、満足してくれたな?」それまでみんなが食べている様子をじっと見ていたドクが聞くとみんなは声をそろえて「う〜ん、まんぞく〜」と答えた。

 

「そうか良かった」メグロ君が「砂漠の真ん中にあるこの町に、こんなおいしいものがたくさんあるなんて、思わなかったよ」「そうだよね〜」「でも僕シアワセ〜」みんなは寝転びながら好き勝手なことを言っていた。

 

マナタ君が思い出したように「あ、そういえば、ドク困ったことってなんですか?」「それじゃそろそろ相談に乗ってもらって良いかな」そういうとドクは話し始めた。「前に助けてもらったときに石油が出た話はしたじゃろ?わしらは砂漠の中に居るから石油からとれるガソリンやオイルが非常に役に立ってな・・・」

 

要約するとこういう話だった。ロボットたちははじめのうち石油を精製し、自分達が使うために燃料となるガソリンやオイルを抽出していた。しかし、石油からは生成過程でそのほかにも色々なものが取れる。ABCの重油、軽油、灯油、プラスチックの原料となるナフサなどだ。しかしこれらはロボットたちには不要なため、べつのタンクに保管しておいた。

 

しかし、タンクも限界となり、仕方ないので他所の国に売ることにした。そうしたらなんとその代金としてものすごいお金が手に入ってしまった。ロボットたちはそのお金で町を整備し、二度と砂に埋もれないために、ドームまで作り上げた。ロボットたちのエネルギーである電気を供給するためドームの内外にソーラーシステムも整備した。十分に電力が供給できるようになったため、いままでガソリンで動いていたトラック形のロボットもすべて電池で動くように改造した。おかげでガソリンも必要なくなり、それも売ることにした。するとそのせいでまたお金が増えてしまった。いまではもう整備するものもなくなり、いったい何にお金を使えば良いのかわからなくて困っているという内容だった。

 

「え〜、ドク大金持ちになったんじゃん?」「すごい!」「大金持ちってどのくらい?」「20万トンくらいのタンカーで1回持っていくと約138億円じゃったかな。それをもう30回は持っていっているから4千億円くらいにはなったはずじゃ。」「4千億円!」「ビルや色々な工場の材料を買って(建てるのは自分達で出来るからな)結構使ったが、これ以上必要なものは無いので、いまはもう石油を汲むのもやめた。でもお金はまだまだ使い切れないほど残っているんじゃよ。」

 

「うひゃ〜、石油って儲かるんだね」「あれ、でもさこの間ドク、お金はいらん!とか言ってなかったっけ?」「言ってた、言ってた。」「それなのにこんなに儲けてハイテク都市作っちゃうなんてね〜」「べ、べつに儲けたくて石油を売ったわけじゃないぞ。最初のうち止め方が解らなくてどんどん出ちゃうし、タンクはいっぱいになっちゃうしで仕方なく売っただけじゃ!」

 

「へぇ〜」「ほぉ〜」「ふ〜ん」みんなの疑いの視線を受けたドクはしどろもどろになって弁解した。その様子がおかしくてみんなはプゥ〜ッと吹き出した。「うそだよ、ドク。」「ドクがお金儲けのために石油を売ったなんて誰も思ってないよ。」「そうそう」「なんじゃ!みんなしてわしをからかったのか!」ドクは7本の腕をブンブン振り回して怒った。その様子が可笑しくてまたみんなは笑ってしまった。

 

「でな、さっきの続きじゃが、まだ1千億円以上残っているんじゃが、もしよかったら全部、お礼に貰ってほしいんじゃがどうかな?」「えぇ〜〜っ!!」「1千億円も僕達に??」みんなは想像してみたが、あまりの金額の大きさになかなかついていけない様子だ。「う〜ん、なんか僕はいらないかなぁ」「うん俺も〜」「だよね〜」

 

「はっ、なんでじゃ、好きなもの何でも買えるんじゃぞ!」「でもそんなにたくさんのお金を使ってまで欲しいもの無いしなぁ」「だよなぁ」と顔を見合わせる。「それよりロボットたちを最新にしたら?」「それは出来ん!そんなことしたら、古いロボット達はどこへ行けばいい?わしらが人間にされたことを、仲間にまたするわけにはいかんのじゃ。」

 

「だから町はこんなに未来都市みたいなのにロボットたちはそのままなのか〜」「みんないまのままで十分満足しているからな・・いや、そうじゃない者も居たなぁ」とそのときエレベータのドアがチンという音を立てて開いた。

 

出てきたのはヤンケだった。ギシギシと脚から音をさせながらみんなの方へ近づいてきた。「やあ、みなさん、お久しぶりです。食事の方は満足していただけましたか?」「へっ?」「ヤンケが普通の言葉話してる!」「なにをそんなに驚いていらっしゃるんです?あ、この言葉使いですか。いやぁ、このあいだネットで「イケてる男の話し方辞書」ってやつをダウンロードしましてね、いまじゃもうすっかりこんな話し方になってしまいましたよ。ハッハッハッ」

 

「うえ、なんか気持ち悪いな」「前のほうが良かったのに」それを横目にヤンケは「ああそうだドク、この間から脚の調子がまた悪いようなので、いまちょっと見てもらえませんか」と言いながらドクの方へ回り込もうとしたその時、ギシギシ、ギッ!という音とともに脚がロックしてしまった。

 

ヤンケは「オゥ!」といいながらテーブルにつかまろうとしたが、テーブルクロスを掴んだだけでそのまま倒れ、その際不運にもテーブルの端に頭までゴンとぶつけてしまった。「アイタ〜、とうとう脚が動かんようになってもぅた、もうちょい早よう来るんやったなぁ」と頭をさする。

 

「あれ、ヤンケの言葉が元に戻ってる!」それを聞いたヤンケは「なにアホな事言うてんねん・・・あ〜っ!」「なんでや、なんでイケてる男の辞書が機能してないんや!」ドクが「きっと頭をぶつけた拍子にどこかにエラーが出たんだな。そっちの方がお前らしくて良いんじゃないか」

 

「アホ言え!ワイの様にイケてる男はイケてる話し方せんとアカンやろ!」「そうか、じゃ仕方ない。もう一度頭を殴ってみるか。治るかもしれんぞ」そういうとドクは4番目の金槌のついた手をニュウっと持ち上げた。

 

それをみたヤンケは「え、いや、ヤメテ。他のところ壊れちゃうから・・・」と動かない脚を引きずりながら後ずさりした。ヤンケの悲鳴とみんなの笑い声がドームに響き渡った。

 

デザートを運んで来たロボットがそらどんの前へやってきた。そして、「こちらはシェフの」と言いかけたが途中でやめ、そのまま戻ってきた。それを見た仲間のロボットが「デザートはお気に召さなかったのか?」と聞くと「いえ、あの方は既にデザートを召し上がっているところでした」

 

不審に思った仲間はそらどんの方を見て納得した。ドームの中にみんなの楽しそうに笑う声が響く中、目をつむったそらどんの顔は、まるで心地よい音楽を聴いて、微笑んでいるかのように見えた。 





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